第二章 -ソウル-

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「……」  (まばた)き一つせずに黙りこくる柚麒さん。彼の強さは語るまでもない。呪いを押さえ込める腕力もそうだが、特筆すべきは揺るぎない心だ。理不尽に死に掛けたばかりだというのに、平然と現在を生きている。  そんな弩級(どきゅう)の強者は、こちらの失態を責めてくれなかった。無論、彼自身が納得した上での決断なら、外野に口を出す権利は無い。一度終わった話を蒸し返すのも筋違いである。  だが、今回は丸く収まったとして、次も上手くいく保証がどこにある? 邪神の悪意は際限がないのに。言葉の刃は制御できないのに。  一番恐ろしいのは、優しさに慣れてしまうことだ。この先私は何回も「救世主」を傷付けるだろう。その度に罪を許されてしまえば、許されるのが当たり前になってしまえば――私は良心を失くしてしまう。感謝の気持ちを忘れ去り、本当の化物に堕ちるのは嫌だ。  だからこそ、ここでケジメを付けなければいけない。自分がどれだけ危険な存在なのか、正直に明かさなければならない。発端は笑えるような話でも、笑い話で終わらせてしまわないよう、ひたすらに柚麒さんの返答を待つ。   「……『■■■■』……」  ――尋常でなく小さい声で、彼はポツリと何かを呟いた。どうやら無意識下の行動だったらしい。「雄弁記者」は「あっ!」と我に返ると、即座におちゃらけた態度を取り始める。 「あ、あ、アハハハハ! な、何をしているんだろうねえ、俺は!? こ、こ、こんな馬鹿なことを口走るなんてさ! い、いやマジでどうして……彼女はのはずなのに……」  目玉をグルグルと回しながら、柚麒さんは支離滅裂な発言を繰り返す。「送り狼」にも「言の葉」にも臆さなかった傑物が、ここまで慌てふためくなんて。一体何だというのだ。彼が図らずも口にした――「タンディ」という一言は?
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