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「……と、ともかくっ! 今触れなきゃいけないのはこっちだろう!?」
声の震えを無理矢理抑えながら、柚麒さんは話題をすり替える。万年筆の先で示すのは、ついさっき書き上げられた謝罪文。紙面と私の顔をチラチラ見比べながら、穏やかな口調で続ける。
「――最初、俺は勘違いをしていた。君がこうして謝っているのは、能力を暴走させてしまったせいだと。勿論それもあるんだろうけど――それだけじゃあしっくりこない。だって、失敗した自分を卑下するにしても、『人でなし』って言葉は強すぎるから」
予想外の部分を指摘されて、脈拍がグンと早くなる。私はただ、己の醜さを包み隠さず伝えたいだけだった。しかし、彼は用意された以上の真実を読み解こうとしている。
「的外れだったら申し訳ないけど、こんな風になるのは初めてじゃないんだろう? 過去に失敗した自分。未来に失敗しそうな自分。どちらも受け入れられないから、何もかもに謝ろうとしている。ちょっと重すぎるよ、君の『ごめんなさい』は」
ヘドロで塗り固められた鎧が、あっさりと剥がれ落ちていく。鳥肌が立つほど不可解なのに、存外爽やかなのが不思議だ。
「はっきり言うけど、俺はちっとも君を恨んでいない。わざとじゃなかったのは明らかだしね。
――とは言え、なあなあで済ませては君の気が済まないらしい。そこで一つ提案がある。俺は君の一切を許し、絶えず君に寄り添おう。代わりに君は――俺を助けて」
「……?」
「ハハハ! こう言っちゃあ何だけど、俺も大概『人でなし』でねえ。だからさ、もし俺がピンチに陥ったら、手を差し伸べて欲しい。進むべき道を見失った時に、しっかりとした足取りで導いて欲しい。――どうかな?」
「……」
正直なところ、彼の言葉は気休めにしか聞こえない。面倒臭い小娘を気遣って、すり寄ってくれたとしか思えない。――にも関わらず、私はペンを執っていた。気付いた時にはその気になって、物語の続きを書いていた。
『よろしくお願いします』
「……ああ。こちらこそ、よろしく」
手帳に何やら書き込む「雄弁記者」を見据えつつ、肩の力を抜いてみる。一連のやり取りは、あるいは全て茶番だったのかもしれない。問題は全て先延ばしで、後に残るのは自己満足だ。
でも、それで良い。正しい選択が何かは知らないが、少なくとも前には進める。ピリオドの代わりにカンマを打った。ただそれだけの話なのだ。
「……よしっ! ようやく舞台が整ったみたいだね。それじゃあそろそろ――取材を開始します!」
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