第二章 -ソウル-

21/24

200人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
 柚麒さんの言い分は実に不可解だ。まず、「襲われる条件」とは何を意味する? 「怪異」と遭遇してより、特別おかしな行動を取ったつもりはない。加えて、こちらに非があるというのも妙な話だ。先に矢を飛ばしてきたのは相手方で、私達はまだやり返してもいない。彼がへり下る理由など無いはず―― 「……フンッ! 随分と聞き分けが良いな。吾輩がこうして顔を見せるまでは、闘志を(たぎ)らせていたくせに。これではしに来た甲斐がない」 「それですよ。(おっしゃ)る通り、当初俺は貴女とやり合う気満々でした。何しろ貴女がどこの誰だか、まだ分かっていませんでしたからね。得体の知れない存在が、お嬢さんに危害を及ぼそうとしている。迎撃して然るべきです。  ところがどっこい、ここまで距離を縮められてしまえば、嫌でも正体が分かってしまう。――たとえとしても、ね」    心底不機嫌そうな魔女と、自嘲気味な「記者」の会話は終わらない。それにしても、「再戦」というフレーズが気になる。二人は以前からの知り合いなのだろうか。とすれば、「非」は彼らの間にある因縁を指している? では、「魂が別物」というのは? 断片ばかり拾っていても、依然として全容が掴めない。 「そりゃあ、人間に化ける怪異なんて珍しくもありません。高知県の『鍛冶が婆』に、兵庫県の『ガイダ婆』――フランスの『ルー・ガルー』も類例かな。  ともあれ、姿形が変わるだけなら構いやしませんが――やっぱり貴女のは異常です。で一体、何があったんですか?」  はて、「数時間」とな? 今から数時間前といえば、私が黄昏の路地を駆けずり回っていた頃で――そこまで考えが至り、腰を打ち砕かれるような衝撃が蘇る。  推理の材料は十分にあった。砂岩を用いた遠距離攻撃、一瞬でターゲットの背後に回り込む妖術、人間らしからぬ造形の耳――むしろ疑問を感じずにいた自分の間抜けさに、ほとほと呆れ返る。  ああ、まったく、「別物」という表現は的確だ。「人」から「人」へ転ずるのなら、「別人」でも事足りる。けれども「獣」から「人」へ変貌するなら、これ以上に相応しい言葉はない。 「――何があろうと関係あるまい。魂にが混じったところで、吾輩は『送り狼』に変わりないのだからっ!」
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

200人が本棚に入れています
本棚に追加