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「ところで貴様、些か不用心ではないか? 神の加護があるとは言っても、もう少し慎重になるべきでは?」
「どの口で……ううん……問題ありません……あの場において……彼らは自分を認識できなかった……貴女とて……自分が今……何をしているのか分からないでしょう?」
「むう、歩いているのではないか? 吾輩の真横を」
「残念……飛んでいるのです……幽霊と同じで……地面に降りられもしませんから……」
創作物に登場する透明人間は、大抵お粗末な形で正体がバレる。灰の上に足跡を残してしまい、追い詰められるのは定番だ。しかし、自分に限ってそんなヘマはあり得ない。
「仕掛け万燈・消え口」。単に姿を隠すだけでなく、あやゆる物質を透過できるようになる。常に浮いているせいで動き辛いのが難点だが、諜報にはピッタリだ。何しろ戦闘の真っ只中でも、傍観者でいられるのだから。
「ぬぬぬ……とは言っても、『声』だけは誤魔化せんのだろう? 幾らコソコソ話したとて、訝られる危険も……」
「平気ですよ……だって……見てください……あの腹立たしいやり取りを……」
指を差して示せはしないが、こちらが言わんとする内容は伝わったらしく、送り狼がキッと前方を睨む。不気味な路地を並んで進むのは、「語らずの巫女」とその協力者だ。
小道はただでさえ密集しているのに、各家の玄関前に植木鉢や自転車が置かれて、実に窮屈である。なので二人の距離が近くなるのは自然だが……あそこまでベタベタするのは不自然だ。
「あのねえ、お嬢さん。何度も言っているけど、俺の怪我は大したことないんだ。もう血も止まっているんだし、その薬は仕舞っちゃって、ね?」
(それは無理。私のせいで付けられた傷だもの。私が治療しないと)
「待って。待ってってば。ケースを押し付けないで。それはもう君にプレゼントしたものなんだよ。俺が無駄遣いするわけには……」
(遠慮しないで。私は責任を取るんだ。少しでも貴方に借りを返すんだ。て言うかそんなに拒否しないでよ、傷付くから。……ええい、こうなったら!)
「……うん? え、え、お嬢さん何してんの? 何でパーカーを引っ張るの!? 勘弁してよ、脱げる脱げる!」
(よっし、このまま強制的に薬を……あ、すっごい。腹筋バッキバキ)
「ちょいちょいちょいちょい! 本当にもう許して! マジで冗談にならない寒さだから! ギャーッ!? 風が傷に沁みるーっ!?」
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