幕間② -椰子の実-

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「……あの下り、今ので何回目だ?」 「五回……六回目ですかね……」 「馬鹿なのか、アイツら!?」  送り狼の率直な問いが、状況の破茶滅茶さを端的に表している。服を奪われそうになって藻掻(もが)く青年は、見苦しい上に鬱陶しい。ふらつく度に家の塀や看板にぶつかるから、ガンガンと響いて仕方がない。何よりあのお喋りっぷり……すぐにでも絞め殺してやりたくなる。  このように彼の馬鹿さ加減も大概だが、事態を加速させる「語らずの巫女」もまた馬鹿だ。さらに彼女の場合、阿呆でもある。上部(うわべ)だけなら大人しいくせに、一皮剥けば感情の大渋滞。小説の語り部でも気取っているのか、延々とモノローグを綴っていやがる。  口頭で喚き散らす声。内心で捲し立てる声。本来交わるはずもない二種類のノイズが、共鳴し合って神の耳を穢す。あわよくば道すがら、「教祖殺し」の手口や動機について盗み聞こうと考えていたが、とてもそんな余裕は無い。 「うっぷ……ほら……お分かりでしょう……アイツら……二人きりの世界に(こも)りきり……こっちを振り向きもしません……心配するだけ損ですよ……」 「……確かにな。けれども、やはり我輩は不安なのだよ。貴様も聞いただろう? 金泉柚麒が『貴女達』と口にしたのを。あれは貴様への警告だったのではないか? 奴がの男なら、そのくらいしてもおかしくない」 「まさか……多分……貴女の中にいる『彼女』を指していたんですよ……魂がどうとか言ってましたし……思考を読める自分が言うんだから……間違いありません……」  迫りくる情報には、当然青年の心の声も含まれている。耳を傾ける限り、彼はまだ自分の存在に勘付いていない。ゆえに怖がらなくても良い……。 「突然ですけれど……送り狼さん……あの金泉柚麒って人……そんなに有名なんですか?」
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