幕間② -椰子の実-

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「なぬっ、逆に知らんのか? 『赤毛の異人』、『火風の化身』、『夕月記者』たる金泉柚麒を!?」 「えー……そんな『皆さんご存じ』みたいに言われても……知らないものは知りませんよ……」 「ぐぬう……まあ、名が上がってきたのもここ数年であるし――我輩とて、本物と対面するのは初めてだからな」  やや落胆気味に独り言ちる送り狼。彼女の反応を見ていると、自分の方が非常識なのでは、と気掛かりになってくる。実際、自分のようなには、外界に触れる機会などまず無かったし…… 「……で……結局何者なんです?」 「そうさな。一言で表すなら――『怪異を暴く専門家』だ」 「暴く……祓い屋みたいな感じですかね?」 「違う。祓い屋は幽霊や妖怪を殺すのが仕事だが、奴はむしろ真逆――のを生業としている。西浪一帯の不思議を調べ、聞き書きをして回る者。我輩を含め、今こうして怪異が存在していられるのは、ひとえにあの男のおかげなのだ」 「えっと……つまり……ごめんなさい……理解できません……どうして『聞き書き』イコール『生かす』になるんですか?」 「ええいっ、そこから説明せねばならんのかっ!? ……どうせ人間の貴様には分かるまいよ。とにかく奴は、相手が神仏だろうと悪鬼だろうと、絶対に物怖じせん。地獄の鬼すら煙に巻く話術、大海の主とも渡り合える武術――いずれも注目に値するが、最も恐るべくは知識量! 民俗学や神話学、その他あらゆる学問に通じ、如何なる怪異でも見分けられると聞く。……我輩も即座に看破された」  忌々しげに呟く魔女の顔は、反対に嬉しそうでもある。矛盾を孕んだ表情は、隠れんぼで見つかった子供のそれに近い。ゲームに負けて悔しい一方で、白い息を切らすほど楽しんでもいるのだ。 「そもそも経歴からして異色なのだよ。10歳で『一つ目の異人』に弟子入り。14歳で一度死するも、見事に復活を果たしている。16歳の時分で同志を募り、秘密結社を立ち上げたのも驚きだ。極め付きは五ヶ月前の『白鯨事変』で……」 「ストップ……一旦ストップして……随分と詳しいんですね……もしかして……彼のファンだったりします?」 「『ふぁん』? ……ああ、『信奉者』のことか。うんにゃ、別にそんなものではない。ただ一度――奴の取材を受けてみたかった。それだけだ」
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