第三章 -金言-

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「……あーらら。ちょっとマズイね、こりゃ」  宙空でパーカーをはためかせながら、柚麒さんは険しい言葉を零す。魔女の怪力と合して、諸刃(もろは)の大剣は擬似的な真空を生んだ。透明な鎌は扇状に波及し、辺りの木々を切り倒す。俗に剣豪と称される者達のそれとは、方向性も品性も異なる絶技。ブチブチと断たれた繊維は痛ましく、(もろ)くなったところからほつれていく。無残な木片はめくれ上がった土に突き刺さり、一層の悲哀を演出する。 「――ふう、間一髪っと。しっかしねえ、送り狼さん! 少々やり過ぎではありませんか? 見てくださいよ、この惨状を! 綺麗な花がペッシャンコのグッチャグチャ! あろうことか、デンドロカカリヤまで巻き込んでくれちゃって……手加減しろとは言いませんが、あんまり景観を壊すのはよしてください。『大家』さんにドヤされちゃいます!」 「フンッ、戯言を抜かすなっ! ここを決闘場に選んだのは貴様だろうに。――大体、戦いの最中に明日の心配とは笑止! 我輩を愚弄するつもりか、アアッ!?」  荒れ野に降り立つ対戦相手に、送り狼は吠えて迫る。思わず声を荒らげたくなるほど、「雄弁記者」はいつも通りだ。得物を構えられた時点で、次に訪れる惨事を予測していたのだろう。斬撃が届く寸前、彼は垂直に跳び上がった。電柱さえ簡単に越えられそうな、桁外れの大ジャンプ。天性の直感と運動神経で、見事災厄を凌いでみせたのだ。 「ハハハ、失敬! 余計な事柄が気になるタチでして。言うまでもなく、貴女は攻撃は素晴らしいものでしたよ。肉体の強靱さもさることながら、注目すべきは武器の出来映え! いいや――破壊の規模を考慮すれば、武器ではなく兵器と呼ぶ方が相応しい。まともに食らえばどうなっていたか、想像するだにヒヤリとする! 流石はをモデルにしているだけありますね」
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