第三章 -金言-

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「……ほう、神器とな。もしや貴様、これの原型に心当たりが?」 「ええ。オリジナルから変わっている部分もありますが、大まかな構造は同じですもの。何より、そのが決定的だ。――『三峯(みつみね)神社』の神紋ですよね?」  柚麒さんが指差すのは、剣の柄頭に嵌まった円形のパーツだ。距離があって見え辛いが、中央に描かれているのは、上下逆さまに咲く二輪の花らしい。それを数本の線が取り囲み、菱形を形成している。 「埼玉県秩父市の三峯神社は、狼信仰で有名なスポットです。狛犬の代わりに狼の象が置かれていたり、御神札に封じられた狼を貸し出していたり――狼除けの呪文である『ミツミネサン』も、ここが由来なんですよね。その起源を辿ると、日本神話の英雄である『日本武尊(やまとたけるのみこと)』が、東国平定の途中で創建したとか。  日本武尊と関係がある、諸刃の刀剣。そんなものは一つしかない。――『草薙剣(くさなぎのつるぎ)』。『八岐大蛇(やまたのおろち)』の尾から取り出された、三種の神器にも数えられる至宝です!」 「ククッ! 嬉しいぞ、金泉柚麒よ。凡人どもは草薙剣といえば、熱田神宮ばかり思い浮かべるからな。――で、貴様はどうする? 大英雄の力に素手で挑む気か?」 「うーん、厳しいですねえ。実物ほどの神力は無くとも、切れ味は本物だからなあ。それに、貴女も期待してくださっているみたいだし。  ――よろしい。こちらも本気を出すとしましょう。半分くらい、ね」  柚麒さんはにわかに腰を屈め、足元をゴソゴソと探り出す。植物の残骸でとっ散らかった地面に、有用なものが落ちているとは考えにくい。けれども、彼はじきに何かを摘まんで立ち上がった。目を凝らして見る限り、特段珍しくもないだ。到底武器にはなりそうもないそれを掲げて、「雄弁記者」は唇を動かす。 「キーン、ヌース゜、バースンナ、カタディ、シーナ、ンチャミ、ヌーリ!」  遠い国の言葉に聞こえた。込められた意味は分からなかった。だが、私が無知でも博識でも、世界は正しく回るらしい。貧弱な枝はニョキニョキと伸張し、やがて一本の「樹」となる。カンフースターが操るような、無骨で小粋な棍棒を片手に、「赤毛の異人」は再始動した。
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