最後のインストゥルメンタルミュージシャン

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 ここでいう邦楽とは広義の邦楽、すなわち、歌番組で特集されるような音楽も含めた邦楽のことである。  邦楽が嫌いな理由……それは、歌ものばかりがもてはやされること。  俺はインストゥルメンタル、すなわち歌のない音楽が好きだ。歌のない音楽といっても、カラオケのような歌い手のために用意された音楽ではない。歌なしで完成されている音楽のことだ。  楽器の奏でる音が心地よいのだ。楽器の種類は問わない。穏やかなものも激しいものも生楽器も電子楽器も受け付ける。  それぞれ違った良さがあるのだ。  では、歌声も楽器の一種として捉えてもいいのではないか。なぜならば、歌声もまた音楽を奏でることができるからだ。  だが、歌声には歌詞というものが存在する。  楽曲そのもののイメージと歌詞のイメージが一致するとは限らない。たいていの場合、多少なりともギャップが存在する。このギャップのせいで、心の中にもやもやしたものが発生し、心地よさが奪われてしまうのだ。  それに、世の中には歌ものが氾濫しすぎていて、俺が好きなインストゥルメンタルの曲を見つけることが、なかなかできない。  だが、それでも俺はインストゥルメンタルの曲を作っているアーティストを見つけ、CDを購入したり、スマホで楽曲データを購入したりしていった。  ウィンドシンセサイザーの音が印象的なフュージョンバンド、斬新な音楽を作る三人組のテクノポップユニット、南米の文化に感銘を受けたドイツ人によるシンセサイザー音楽ユニット、アテネでコンサートをやったギリシャ人のインストゥルメンタルミュージシャン、そして、あまたのクラシックやゲームミュージック等々……  昔は良かった。少し頑張ればインストゥルメンタルの曲を見つけることができたから。  だが、今ではほとんど見つからない。
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