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部屋に戻って、ようやく昨日彩音がくれた紙袋を手にした。とても軽い。恐る恐る中身を取り出した。淡い紫色のラッピングペーパーに包まれていて、そっとテープを外すと中にブルーのシフォンスカートが入っていた。
ふわっとして透明感のある薄い生地が春らしく、とってもかわいいスカートだ。
――彩音は、こんなにすてきなスカートが私に似合うと思ってくれていたの……?
私はこのスカートをはきたいと思った。
バスパンを脱いでスカートをはき、鏡の前に立った。真っ白なパーカーに膝下のシフォンスカート。身体をひねるとスカートの裾がふわりと揺れた。最高のコーディネートだ。
きっと私は、スカートをはきたくないわけじゃなかったんだ。昔、海斗にからかわれて、私なんてかわいくないからと自分の気持ちを封印していただけだったんだ。やっぱり彩音は私のことを一番わかってくれていた。
海斗は幼なじみで気が合うし、周りにつき合っているのか聞かれて浮かれていた時期もあった。でも私はいったい海斗のどこが好きだったんだろう? 彩音のいいところならいくつでも言える。自分の意思があるところ、率直なところ、いつも私を大切に思ってくれるところ。
すぐに彩音にメッセージを送った。
『話がある。うまく話せるかわからないけれど』
少し待ったけれど返事は来ない。電話をしてもつながらない。私は部屋を飛び出し、階段をかけ下りた。
「ちょっと出かけてくる!」
「え? こんな時間にどこ行くの?」
「彩音のとこ!」
母の声を背に玄関を出て自転車に飛び乗り走り出すと、雨はいつの間にか止んで、夜空に星が出ていた。
彩音は自分に正直でいることを選んだ。私も自分らしくいたい。人にも自分にもちゃんと向き合いたい。人を好きになるってどういうことなのか知りたい。彩音の返事がないのは私のことを嫌いになってしまったからかもしれない。どうしよう、不安で心がひしゃげてしまいそうだ。
ぬれた道路が街灯の光を反射してきらめく中、私は彩音の家へ自転車を飛ばした。
*The end*
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