初恋

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初恋

(はやて)くんとは、小学校からの同級生。 1学年3クラスの小学校で、なぜか唯一6年間同じクラスだった子。 そして、1学年6クラスの中学校でも3年間同じクラス。 けれど…… 「これはきっと運命の人!」 ……だと思いたくても思えない訳がある。 颯くんは、毎年、学級委員を務めるクラスのリーダー的な存在。 一方、私は、休み時間にはいつも読書をしているクラスでも目立たない地味な存在。 同じクラスにいながら、私たちは住む世界が違う。 そんな彼に、私が初めての恋をしたのは、小学6年生の時。 6年生の春、私は6年間で初めて彼の隣の席になった。 人見知りの私は、いつも通り自分の席で本を読んでいた。 読書をしていれば、無駄に話しかけられることもなく、自分から話しかけに行く必要もない。 そう思っていたのに、(はやて)くんは違った。 私が本を読んでいてもお構いなしに話しかけてくる。 「愛梨(あいり)、これ何?」 えっ? 呼び捨て!? 普段、友達から愛ちゃんと呼ばれてる私を、当然のように呼び捨てにする颯くん。 まぁ、颯くんは誰のことも気さくに呼び捨てにするから、同じようにしただけなんだろうけど、ほとんど話したことがない私のことまで呼び捨てにするとは思ってなくて、驚いた。 当の颯くんは、私の開きっぱなしの筆箱に入ってた私の私物を勝手に取り出して、不思議そうに眺めている。 「青ペン」 おしゃべりが苦手な私は簡潔に結論だけを告げる。 颯くんがそれをペンだと分からないのも無理はない。 だって、それ、見た目はマニキュアなんだもん。 お土産でもらったマニキュアの形をした青ペンは、私のお気に入り。 「え、マジ!?」 驚いた颯くんは、その蓋をとってみて、また驚く。 「すげぇ! おもしれぇ!」 颯くんは万事がこの調子で、いつもこちらの都合などお構いなしに、ずけずけと踏み込んで来る。 それでいて、その人懐っこさは、なぜか嫌な気分にはさせない不思議な魅力がある。 そうやって、内気で人見知りな私の心を開いた颯くんは、私の特別な人になった。 男子とは全く喋らない私も、颯くんには話し掛けることが出来る。 けれど、それも隣の席にいる間だけ。 みんなの人気者の颯くんが集団の中に入ったら、私にはとても声を掛けられない。 私は、ほのかに灯した初恋を胸の奥にしまったまま、小学校を卒業した。
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