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生徒会選挙
そして、同じ地元の公立中学に進学した私たちは、偶然にもまた3年間同じクラスになった。
颯くんは、中学2年生で突然身長が伸び、当然のように、女子からの注目を集めた。
いろんな子が颯くんにアプローチをする中、私は、ただ見つめることしか出来ない。
そんな中、2年生の終わり、颯くんは生徒会長に立候補した。
颯くんなら適任だと思う。
私はそう思って眺めていた。
ところが、雪がこんこんと降りしきるとても寒い日に、颯くんが寒い廊下側に座る私の席にやって来た。
「なぁ、愛梨、頼みがあるんだけど」
颯くんは、前の子の椅子にまたがり、後ろ向きに座る。
「頼み?」
私なんかにわざわざ頼まなきゃいけないことがあるとは思えない。
後ろ向きに座った颯くんは、キョロキョロっと周りを見渡し、みんなが窓際の暖房のそばに集まり、近くに人がいないことを確認すると、軽く身を乗り出して小声で尋ねる。
「聞いてくれる?」
って……
「何を?」
聞くも何も、頼みごとが分からないと答えようがない。
「どうしても愛梨に頼みたいんだ。だから、絶対断るの禁止」
???
どういうこと?
よく分からなくて、私は思わず首を傾げる。
でも、颯くんがわざわざ私なんかにお願いしたいことがあるなら、それは何でも聞いてあげたいとは思う。
「私に出来ることなら、聞くけど」
私がそう答えると、颯くんは、しめた!とばかりに、嬉しそうに、ニッと笑った。
「愛梨、来週の選挙の日、俺の応援演説して」
…………は!?
一瞬、内容が飲み込めなくて、無言でキョトンとしてしまった。
けれど、私は、一瞬で我に返る。
「無理っ! あれでしょ? 体育館のステージでスピーチするやつでしょ!?」
そんなの無理に決まってる。
「どうしても愛梨に頼みたいんだ」
颯くんは小声なのに真剣な眼差しで訴えてくる。
「愛梨の文章は、いつもちょっと笑えて、でも、なんか共感できて、すごく引き込まれるだろ」
確かに、私は作文が得意で、国語の時間なんかにもよく先生からの指名で、書いたものを読まされる。
「いや、でも、だからってステージでスピーチするのは……」
書けるのと、話せるのは、全然違うもん。
だけど、颯くんは諦めない。
「なんで? いつも報道委員として放送してるじゃん。愛梨の声は、落ち着いてるのによく通るから、すごく聴き心地がいいって、ずっと思ってた。愛梨が応援演説してくれたら、みんな納得して投票してくれると思うんだ」
確かに、私は報道委員として放送もするし、合唱祭などの学校行事の司会なんかもする。
でもっ!
「あのね、放送は目の前に人がいないから、できるの。ステージの上で喋るのとは違うのよ」
マイク1本を隔てた先にあるのはただの壁。
聞いてる人も、誰が話してるのか分からないと思えばこそ出来るのよ。
大勢の前で話すなんて、私には無理。
「大丈夫! 愛梨なら絶対出来るよ。
な? 頼むよ」
好きな人に、懇願するような視線を向けられると……困る。
これじゃ、断れないじゃない。
「ぅぅゔぅぅ、やってみるけど、どうなっても知らないよ?」
結局、断りきれなかった私は、応援演説を引き受けてしまった。
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