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選挙当日。
私は何度も練り直した原稿を持ってステージに上がる。
階段を上りながら、私は自分に言い聞かせる。
目の前にあるのはマイクだけ。
群衆に見えるのは、壁に描いてある絵。
私は1人。
ここには誰もいない。
自己暗示を掛けて、演台の前に立つ。
お守り代わりの原稿を演台に広げて置くと、私はすぅっと、大きく息を吸い、深呼吸する。
これはお昼の放送。
いつも通りに話せばいい。
私は一度閉じた瞼を開き、前を向いた。
「皆さん、こんにちは。2年3組の田宮 愛梨です。私は来年度前期生徒会長に瀬戸 颯くんを推薦します」
原稿は暗記している。
演台に置いてあるのは、あくまでも、緊張して忘れた時のためのお守り。
私は、颯くんがいかに生徒会長に相応しいかを切々と述べる。
そうして、無事、演説を終えて降壇した。
緊張していたので、うまく言えたのか自信はない。
けれど、下で控えている颯くんが笑顔で迎えてくれた。
「ありがとう。めっちゃ良かった」
ほっ……
その後、颯くんは、全く緊張を感じさせることなく、スピーチを終える。
結果、颯くんは、翌年度前期生徒会長に選出された。
そして、4月、また同じクラスになった颯くんは、なぜか学級委員に私を推薦してくれたけど、私は絶対無理だからと、謹んで辞退した。
そうして、颯くんとは、付かず離れずの距離を保ったまま、ただの同級生として中学を卒業した。
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