卒業式

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卒業式

翌日、奇跡的に暖かい陽気となった春の日差しのもと、それでもひんやりとした体育館で卒業式を終えた。 3月の初め、校庭の桜は、まだ蕾を固く閉ざしている。 けれど、そんなことは気にも留めない私たちは、みんなそれぞれ写真撮影などしている。 私も数人の仲のいい友人と、校内のあちらこちらで写真を撮る。 交友関係があまり広くない私は、早々に写真を撮り終えると、颯くんを探す。 颯くんは、教室でクラスメイトみんなと写真を撮っていた。 今、声掛けるのは、邪魔よね。 何より、こんなところで声を掛けたら、注目を浴びて恥ずかしい。 私は戸口の陰から、声を掛けることなく、そっと颯くんを眺めていた。 すると、不意にこちらを向いた颯くんが私に気づいた。 「あ! 愛梨!」 颯くんはなぜかクラスメイトの元を離れ、私の方へやって来た。 「愛梨、小学校からえっと12年間?ずっとありがとな」 そんなことを言ってもらえるとは思わなくて、胸がいっぱいになる。 私は返事もできずに、ただ首を横に振った。 「愛梨、写真撮ろうぜ」 写真……撮れるの? 颯くんと? 思わぬ申し出に、私は嬉しくなり、そのままこくりとうなずく。 それを見た颯くんはポケットからスマホを取り出すと、私の肩を抱き寄せた。 えっ? うそっ!? 驚いた私はそのまま固まってしまう。 すると、颯くんはニッと口角を上げる。 「ほら、愛梨も笑え」 笑えと言われて笑えるほど、私は器用じゃない。 固まったままの私を見て、颯くんは肩を抱く手にギュッと力を込めると、首を傾けてコツンと私の頭に当てた。 えっ? えっ? えっ? うろたえる私に颯くんは言う。 「1たす1は?」 私がうろたえた表情のまま、慌てて 「2」 と答えると、その瞬間、颯くんはすかさずパシャリとシャッターを切った。 フッと言う吐息と共に、颯くんが笑みをこぼす。 と同時に、私の肩を抱く手を解いて、 「よくできました」 と言った。 えっと、えっと…… 嬉しい反面、恥ずかしすぎて、居た堪れなくなった私は、唐突に昨日から考えて来た台詞を一気に吐き出す。 「あのっ、颯くん! 私、ずっと、好きでした。東京に行っても頑張ってください」 私は、それだけ言うと、返事も聞かず、くるりと(きびす)を返して廊下を駆け出した。 「えっ? 愛梨!?」 後ろから颯くんが呼ぶのが聞こえる。 それでも、私はそのまま廊下を走り続けた。 遠くに「颯、これ……」と颯くんを呼ぶ声が聞こえる。 私は一気に階段を駆け下りて、そのまま下校した。 帰宅してそのままベッドにダイブすると、そのまま隠れるように布団に潜り込む。 もう、恥ずかしくて恥ずかしくて、自分でもどうしていいか分からない。 こうして、私の初恋は幕を下ろした。
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