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「麗華、冬休み、久しぶりにおばあちゃんの所に行こうか! 夏休みは無理だったけど、お母さんやっと連休取れたから……」
「……? 何言ってるのお母さん。おばあちゃんの所なら、先週も行ったじゃない。一緒にイタリア旅行もしたし」
「え……?」
「それより、この間食べた本場のカヌレ、また食べたいわ。明日フランスに行きましょう?」
「……麗華?」
彼女のポケットから魔法が減る度、頭の中には嘘の記憶が増えていった。
そして彼女の中ではそれが事実で、それ故あまりにも堂々と語るものだから、以前のように嘘がバレないようにと辻褄合わせの判断も出来なくなっていき、しまいにはクラスのみんなからも、『嘘つき』と呼ばれるようになっていた。
「まーた嘘つき麗華が嘘ついてるよ。懲りないよなぁ」
「嘘じゃないわ! 本当よ!」
クラスの男子にからかわれようと、麗華は怯むことなく主張する。
何しろ嘘をついている自覚もないのだ。以前のような罪悪感もなく、彼女は何故わかってくれないのかと憤った。
「はいはい、良かったな。……行こうぜ海斗。お前優しいし、笑って聞いてたらまたあの嘘つきに騙されちまうぞ!」
「う、ん……ごめんね麗華ちゃん、僕、そろそろ行くよ」
「えっ、海斗くん……待って!」
向けられた背中に伸ばした手が空を切る。一人残された放課後の教室で、麗華は頭の中いっぱいの記憶の中、一番鮮烈な事実を叫んだ。
「……嘘じゃないわ! 魔法の駄菓子屋さんだって、本当にあるんだから! ソライロの飴だって、ちゃんとあったんだから……!」
けれど彼女が本当のことを言ったとしても、もう誰も信じることはない。
そして事実も嘘となり、その後彼女があの駄菓子屋に辿り着くことは、二度と出来なかった。
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