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ドカンと落雷を受けたような衝撃を感じた。そうだった。私は女優になるために上京したのだ。オーディションで落とされるために、東京に来たわけではない。カズさんが言うように、芝居ができる環境を作れば良いのだ。なんで、今の今まで気づかなかったのだろう。
「目から鱗です。三十七歳にして、初めて気づきました」
「三十七! マジかよ。タメじゃん。もっと若いかと思ってたわ」
「同じ年だったんですか! いやいや。カズさんが老け過ぎなんですって。私は、今の今まで、カズさんのことアラフィフおじさんかと思ってたし」
「ひでーな」
カズさんは、気に障った様子もなくゲラゲラと愉快そうに笑った。汗でもかいたのだろうか。手を拭いたおしぼりで、首筋や額を拭っている。そんなアラフィフおじさん特有の癖を見ていたら、バイトが終わり次第、アラフィフのあの男に連絡しなければと名案が浮かんだ。
「カズさんのお陰で、良いアイデアが浮かびました。お礼に、一杯だけ生中おごりますよ」
「えっ、いいの?」
「大丈夫です。店員なら誰でも、ビールサーバーから生ビール注げるんで。今、持って来てあげますね」
私は店員が、勝手にお客さんにビールを振る舞うことは禁じられているのを知りながら結局二杯の生ビールとお通しの枝豆をタダで振る舞うのだった。
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