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第3話・売れっ子になるために
カズさんが帰りバイトが終わった後、私は早速更衣室でiPhoneを無印良品で買ったトートバッグから取り出した。もしかしたら、滝田の電話番号を別れた時に、勢いに任せ消去したのではないかと焦ったのだ。けれども滝田の電話番号は消去されず、携帯にきちんと残っていた。
滝田幸雄は十年前に別れた彼氏だった。私が仙台から上京し俳優養成学校を卒業した後、新宿歌舞伎町のキャバクラでキャストをしていた時に出会った客だ。私、二十二歳。滝田は三十七歳だった。つまり私は、出会った頃の滝田と同じ年齢になってしまったことに軽い衝撃を覚える。
滝田は何でも有名な小説の文学賞を取り、ゴールデン街で飲んだ後、経費で落とせるからと馴染みの編集者に連れて来られたらしい。滝田は小説家だけあって色白のぽちゃぽちゃした体形で、背も低くブサイクだったが、若い頃は広告代理店に勤めていただけあって話がめちゃくちゃ面白かった。
初めて出会った時は、名刺交換をするだけだったが、滝田は時間を見つけては店に来てくれた。もちろん私を指名して。どうやら滝田は、私の清楚な顔と、タイトな白いロングドレスから見えるFカップの巨乳を気に入ったらしい。その内、付き合うようになり、滝田幸雄原作小説のサスペンスドラマでは、端役でテレビドラマにねじ込んでくれた。
私は上京したての田舎娘だったから、芸能人の仲間入りができたのだと喜び、母親の百合も児童劇団から付き合いのあるママ友に自慢した。恋人のコネだったことは秘密にしたが、その内、未来の旦那さまとして滝田を家族に紹介するつもりだった。
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