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第1話・女優やめたの?
冷たい秋風が、うなじをくすぐった。長かった髪をバッサリと切ってしまったこともあり、首筋が少し寒いくらいだった。何年も伸ばし続けたロングヘアを仙台長町のモッズヘアでショートボブにし、実家に帰ったら、母親に「どうしたの?」とかなり困惑された。母親に髪を切る相談をして止められたら躊躇するだろうし、髪を切る決断すら揺らぐかもしれない。
だから十月の戌の日に護國神社でお参りすることが決まった前日に、美容院でバッサリ髪を切ってしまったのだ。これからは自分の意志で生きるために。
赤茶けた木鳥居をくぐると、青葉城の方から飛んできたトンビが旋回していた。真っ青な空には鱗雲がたなびいている。毎年目にする見慣れた光景なのに、特別な風景に思えるのは、チュニックワンピースの中の腹帯を巻いたお腹に小さな命が宿っているからかもしれない。
両親と一緒に、わざわざ自宅から車で二十分かかる護国神社に来たのは、安産祈願のご祈祷の予約を入れてあったからだ。溺愛してきた一人娘が三十七歳という年齢で、やっと赤ちゃんを授かったことは、気が気ではない事件だったようだ。今日は平日だというのに、父親は勤めている会社の有給を取り、神社について来た。
私も母も運転免許がなく、バスで行くからと断ったにも関わらず、交通事故に巻き込まれたら大変だとか、一緒に行かないと仕事が手につかないとゴネた。
一昨年買ったミニクーパーに、あまり乗ってないこともあり(母がパートに行く時は歩き、父は自転車通勤)なので、たまには家族揃ってドライブをしたかったのかもしれない。
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