嘘つき娘

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 岩にぶつかる波が作り出した白い泡しか見えない。ザン、バシャ、と音を立てるたびに細かな水飛沫が顔のどこかにかかっているようでツンと突くような海水の匂いが鼻腔を刺激した。 「しょっぱい」  傍で姉も覗いていたようだ。不意にする行動が似ている所は、改めて僕たちは双子なんだと思わされる。 「身を乗り出しすぎなんだよ……あっ」  姉の姿を確認しようと体制を変えようとした僕の手から懐中電灯が滑り落ちた。  カン、と岩にぶつかる音が鳴り、コロ、と転がる。  ギリギリ手の届くところに転がった。波が来る前にと僕は手を伸ばしたが、白い手が先に攫った。  ザバ――  音と共に引いていった白い手は、黒い手袋に懐中電灯を包んで水中へと沈めてしまった。 「あーあ……」  落胆の声を上げるも、懐中電灯を落としたのはこれが初めてではない。多分、3回目ぐらいだ。だから落としても懐が痛くならないように100円ショップの懐中電灯を使っていた。また新しいのを買いに行かなきゃな、と波の様子を眺めながら僕が思考しているとため息が聞こえた。 「そろそろ、本当のこと言わないとだね」  暗闇の中、姉の声が反響する。  ようやっと人魚じゃないことを認めるのだろうか。  それはもうとっくに知っているし、最早恒例漫才的なやりとりにも感じていた。それに区切りをつけるという意味だろうか。にしても今更すぎやしないだろうか。双子なのに姉の意図がさっぱり汲み取れていない僕に、姉は言った。 「傷つけないように嘘をつき続けたいけど、やっぱダメだね」  震えた声が耳元で聞こえた。  聞こえすぎて、耳の内側で聞こえたような錯覚を起こしていた。  妙に、僕の鼓動が早くなった。  ドクドクと脈打つのが耳元で聞こえる。  どうして僕はそんなに緊張しているのだろう。  どうして僕は、耳を塞ぎ始めているのだろう。  どうして、全身が震えているのだろう。 「いやだ」 「お願い聞いて」  耳を塞いでいるのに姉の声が耳元で聞こえる。  僕は必死に首を横に振るが、姉は有無を言わさないつもりらしい。  かすかに、息を吸う気配を感じ取れた。  同時に僕は、はぷっと口を閉じて息を止める。  絶対に聞くもんか、と強い意志を示すように。  けれど、僕の口は、動いた。 「そうだよ、私は人魚じゃない」 「だから、(かける)。お姉ちゃんはもう生きてないよ。(まい)という双子の姉はさっきの懐中電灯のように海に沈んで死んじゃったんだよ」  姉からの告白に  僕の口から紡がれた告白に  僕は、慟哭した。 「あああああああああああああああああああああ!」
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