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「この中に、裏切り者がいる。その裏切り者は、私を金貨10枚で売るだろう」
多くの奇跡を行い、人々から救い主と呼ばれている彼は、弟子たちが全員集まっている食事の場で、弟子たちに語り掛けるように静かに言った。
「そんな! あなた様を、そんな安い値段で売るなんて」
「いや、そこじゃないだろ……」
怒りに我を忘れた弟子Bが口から食物を飛ばしながら叫ぶと、隣にいる弟子Aがぶどう酒が入ったカップに手をかけたまま冷静に突っ込んだ。
「いつですか? そんな酷いことをされるのは」
「いや、そこじゃないだろう」
不安にさいなまれた弟子Cが手に持ったパンを落として質問すると、先ほどの冷静な弟子Aがさらに突っ込んだ。
「明日の朝、私達が次の町に向かうと、裏切り者から連絡を受けた役人が兵士達とともに現れるのだ」
救い主は、悲しそうに弟子たちに応えた。
「救い主様の預言だってあたらないこと、ありますよね」
「いや、そこじゃないだろう」
弟子たち全員がざわざわして浮ついた状態になるが、弟子Dは、そんな弟子たちを落ち着かせようと救い主の予言に反論すると、冷静な弟子Aが再びつっこんだ。
「一体そんなことをするのは、誰ですか?」
「それは、私じゃないですよね」
不信感を持った弟子Eは救い主に裏切り者の名前を問いただす。すると、その横にいた弟子ユダはつられるように反論する。
「イヤ、裏切り者はお前だ、ユダよ」
救い主はユダの目を悲しそうに見つめてから、ハッキリと答える。
救い主の言葉を聞いたユダは、激しく後悔して役人から受け取った金貨10枚を投げ捨てると、崖から身を投げた。
* * *
「起きなさい、ユダよ。あなたには、未来永劫、裏切り者という烙印が『最後の晩餐』の名画と共に付きまとうことになります。たった一度の心の迷いで裏切り者の名を冠するのはあまりに可哀想です。あなたにはもう一度転生するチャンスを与えましょう。何になりたいですか?」
転生の女神は、驚いているユダに優しく声をかけた。彼はしばらく考えてから答えた。
「弟子達から裏切り者が出ないように、今度は私が救い主をやります」
──そして、冒頭に戻る。
(了、ではなくて続く、ですね)
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