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僕たちは同じ大学に進み、無事に卒業して就職もすることができた。
就職先は別々だったけれど、交際は続いていた。週末はデートするし、有休を合わせて旅行に行ったりもした。そして、交際がまもなく十年目を迎えるというある日、僕は吉川さんをカフェに呼び出した。
「なあに、話って」
「い……一緒に暮らさないか?」
僕の中ではもちろん、その先にある結婚まで見据えての発言だ。
一瞬驚いたように目を丸くした彼女は、自分の前に置かれていたカフェラテを一口飲み、少し考えるように視線を動かしてから僕のほうを改めて見て口を開いた。
「もちろんいいよ。けど……」
「けど?」
「私、嘉仁沢君が好きなの。家では結構それに割いている時間も多いけど、平気?」
「まだ嘉仁沢の事が好きなの?」
声が思わず裏返るほど驚いた。
「まだって言うか……うん。好きなの」
「本気で言ってる?」
「うん。みんなそうだよ? 大抵の人は嘉仁沢君が好きだけど、今の彼氏とお付き合いしてるの。女性の間で人気なんだよ、嘉仁沢君」
嘉仁沢はいつの間にか格好を飛び出し、世の女性の間で人気になっていた。
いったい何者なんだ。在学中、結局彼の正体は分からなかった。
ひょっとして痩せる系のサプリか?
それとも韓国コスメなのか?
あるいはチーズハットグみたいな食べ物なのか?
「だって、もう僕たち十年付き合ってるんだよ? なんでまだ嘉仁沢が好きなの?」
「え、なんでって……だって、好きなんだもん」
仕方ないじゃん、と言わんばかりに彼女は唇を尖らせた。
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