嘉仁沢君

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「みなさん、そこまでです!! やめて下さい!!」  凛としたその声のおかげか、ピタリと女性たちの動きが止まる。 「すみません、通してください。すみません……」  言いながら人波をかき分け、僕と女性たちの間に入ってくれたのは、スーツ姿のやはり女性だった。 「暴力はダメです。土下座の強要や、動画を撮影してSNSにあげるなんてもっての外です」  それから彼女は僕のほうを振り返った。眼鏡をかけた優し気な女性だった。 「ケガはありませんか? 大丈夫ですか?」 「あ、はい。大丈夫です。いや、酷い目にあいました……」 「酷いのはあなたです」  女性の表情が途端に厳しくなった。 「え?」 「嘉仁沢君が不倫なんて、そんなことするわけありません。何の証拠もなく、そんなことを公共の場で言うなんて、立派な名誉棄損です」 「え? え?」 「嘉仁沢君は優しい人ですから、あなたの物理的な死やSNSの拡散による社会的な死は望むはずありません。だから、力による解決はすべきではありません。けど、彼に対する侮辱で傷んだ私達の心は別です。ですから、制裁は受けるべきです」 「え、どういう……」 「私達はあなたを訴えます。近いうちに訴状が届くと思いますのでお覚悟を!!」  彼女の言葉に店内から拍手が起きた。
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