待っている美少女

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待っている美少女

私は列車の運転手。今日も大勢の人達を乗せて駅に着いた。 この駅の先はもう何も無い。そう此処は終着駅。 今日もあの娘はプラットホームのベンチに座っている。凛々しい瞳に潜む悲しみは、 何を意味しているのだろう? 降りてくる人達の誰を待っているのだろう? あの娘が顕れたのは、いつ頃だったのだろうか? 私が気が付いた時には、あの娘はベンチに座っていた。 「いつも君は此処にいるね。誰を待っているの?」 急に話しかけられて少女は驚いたのであろうか?その美しい切長の目元が私の顔を、 不審気に見つめてくる。 その眼差しで観られると、こちらは戸惑ってしまう。 無理に作り笑顔をしても、顔がこわばるだけだ。 「いつ此処に来たの?」と、優しく聞いてみた。 少女は、 「お兄さんは、列車の運転手なの?」 私の制服を見て、運転手と察した様である。 「そうだよ、私は列車の運転手だよ。」 と、自分の身分を明らかにする事で、少女の不審を取り払いたかった。 「私が、この列車に乗ろうとした時、お父さんとお母さんから、はぐれてしまったのよ。ちゃんと手を繋いでいたのに、お父さんとお母さん見えなくなったのよ。 三人で一緒に行くって約束したのに、何処に行ったのかしら?」と、 あどけない表情に寂しさを浮かべて語ってくれた。「逸れてしまったのですか?でも、こんな所で待ったら強制的に連れて行かれてしまいます。 でも今まで、見つからずによくいられましたね。」 「誰も、私の事など気にしていないわ。私なんか居ても居なくても同じよ。 向こうでも、そう言われていたわ。」 と、精悍な顔であったが、声には力が無かった。 確かに、毎日大勢の人達が此処に来るのである。 一人ぐらいは、どうでもいいのであろう。 「さっき、お父さんとお母さんと一緒に列車に乗ると言ってたけど、 一緒に行く事を約束していたのですか?」 「そう、お父さんもお母さんも一緒に行くって言うから、私は許したのよ。 なのに、何故列車に乗らなかったの?不思議だわ。でも、もうすぐ来るわ。 私、霊感強いから感じるの。三人で旅行に行く予定だから!」 と、少女の言葉に力が出てきた。 「でもね。列車に乗ったからって、この駅に来るとは限らないよ。 此処は終着駅だから、途中で降りるかも知れないよ。」 「嘘!此処の駅しか教えてくれなかったよ。 私の買う切符の行き先は何処ですか?と聞いたのよ。 そしたらこの駅の名前を教えられたわ。 『他に降りる所は無い』と駅員さんに言われたのよ」 「そうですか?でも他の人はそれまでの駅で降りていませんでしたか?」その言葉を聞いた時、少女の顔色は変わった。 「そう言えば、何人かの人が この駅に着く前に降りて行ったわ。 お母さんもお父さんも途中で降りてしまったのかしら?」 と、不安がる少女が、私には不憫に感じた。 「お父さんとお母さんは三人一緒に行こうと言ったのですね。 だとしたら、此処に着きますよ。間違いないです。 でも、この列車に乗っていたらの事です。」 「何故、お父さんとお母さん乗らなかったの?突然居なくなるなんて!」 と、少女はさっきと同じ事を言って静かに泣き出した。 私は少女に掛ける言葉は無かったが、「君の名前は何というのですか?」と聞いてみた。 少女は涙に濡れた頬を拭う事もせずに、名前を私に教えてくれた。 「大塚明子。中学生に入学したばかりよ。でも背が高いからもっと歳上に見られるの。」と、少し自慢気に言ってきた。 「そう、君はまだ、中学一年生か。若いね。まだまだ、やりたい事あったでしょう?」 「私ね。テニス部に入ったの。小さい時からテニスに憧れていたの。 家にはピアノもあったのよ。私 ピアノも弾けるのよ」 と、大人びた風貌に、あどけない表情がたまらなくなる程、愛らしい。 「君は美人さんだから、男の子に人気があったでしょう」と 聞いてみた。 すると、少女は俯き恥ずかしいそうに、言った。 「そんな事無いよ。モテないよ」 「でも此処に来てしまったら、」 と、私はそれ以上の言葉は、出せなかった。 「君のお父さんとお母さんの名前は、何?」 「何で、名前なんか聞くの?」と、少女は訝しげに聞いてきた。「明日、列車に乗る人の名簿を調べて見るよ。名前が判れば君に教えてあげられる」と、答えたが、 これは全くの嘘っぱちだった。 「お父さんはね、大塚博人。お母さんは律子って言うの。 お兄さん、本当に判ったら教えてね。明日もベンチに座って待っているからね」 「判ったよ。明日、戻って調べて来るね。今日はもう遅いから、 帰るといいよ。見つからない様に隠れているんだよ。」 と、私は少女の隠れ家が気にはなったが、規則違反となるので、それ以上の関わりを持つのは、辞めにした。 明日、早めに戻って事務所で明子の両親を調べて見る事を決めた。 そして次の日の朝、早々に始発駅に戻り、その事務所で確認した事は、 明子に掛けてあった多額の生命保険金を手に入れて喜んでいる 二人の姿が、そこに映し出されていた。
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