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待っている美少女(前)
男は、もがき悩み苦しんでいた。
生きる希望も薄れ、ヤケになる自分をどの様に抑えるかだけしか、
考える事は出来なくなっていた。
彼には多額の借金があった。もはや成す術も無い。
妻は夫の苦しみを手に取る様に理解していたが、解決の余地は無く、この地から逃げ出す事しか想い浮かばなかった。
しかし、どの土地に行っても借金取りは追いかけてくるであろう。
夫婦が悩んだ挙句出した答えは、・・・・・。
美少女がいる。
名前は大塚明子。
端正な顔立ちと聡明な人柄と、160cmを超える身長、スタイルの良さは、中学1年生とは思えない大人びた風貌である。
だが、その並外れた資質の為に、明子は同性からの嫉妬とからか、イジメを受けていた。
異性からはその美貌なのか一歩引かれ、明子に寄り付いてくる男子は、一人も居なかった。
明子は、その様な状況の元で苦しんでいた。
「みんな、私をイジメる。無視されている」
その悩み苦しみは、自らの命を絶つ事と、若い明子は熟慮する事も無く判断を下していた。
そして明子は、両親宛に遺書を書いた。
だが、自ら命を絶つ事はそう簡単には出来なかった。
妻は、夫から提案を受けた。
「これ以上、生きていても借金取りに追われ苦しむだけ、
いっその事こと、三人で心中しよう!」
と、憔悴した夫の答えは、自ら死を受け入れ、逃げる事であった。
「そんなの嫌よ。死ぬ何て、絶対に嫌よ」
と、泣きじゃくる妻を見て、夫は
「俺だって嫌だよ。だけどもうこれ以上どうしようも無い。
借金取りに捕まったら、何をされるか判らない。
明子だって、どの様な目にあうか、・・・・・。
お前だって、そうだ!
奴らは、何をするかわからないんだ。」
と、腹から搾り出す様な声であった。
しばらくの沈黙が流れた。
そして、妻が言った。
「この前、・・・・明子の遺書を見たの。明子、死にたいと思っているの。・・・」
と、妻は言葉を詰まらせながら、少しづつ喋った。
「お前、何が言いたいんだ?」
と、不審気に聞いた。
「明子、死にたいと想っているのなら、明子だけ死んでもらうのよ。」
と、母とは思えぬ言葉である。そして更に続けた。
「明子に保険金かかっているわ。あの子が3歳の時から入っていた保険よ。あれを利用するの」
と、悪魔が乗り移ったとしか思えない言葉である。
「あの、保険金で借金を返済してもまだ、あまるわ。
私達が助かる道はこれしか無いのよ。明子は死を望んでいたのだし、私達が罪悪感を持つ事は無いわ」
「馬鹿な事を言うな!明子はまだ中学生になったばかりだぞ!」
「でも、あの娘死にたいと想っているのよ!もしかしたら、もう死んでいたかも知れないのよ!」
「お前は、あの娘の実の母親では無いからその様な薄情な事が言えるんだ!明子が可哀想ではないか!」
「だったら三人で死ぬと云うの!私は嫌よ!貴方だけ死になさいよ!」
と、妻の言葉は強く命令するかの様だった。
しばらく、沈黙が過ぎた。
「どうやって、明子に自殺させんだ?!」と、夫の声には力がない。
「明子に三人で心中しようと言うのよ。そして三人で死ぬ様に見せかけるのよ」と、妻の声は明るく強い。
「だが、どうやって、見せかけるのだ?」
と、夫婦の会話は先程とは違い段々と熱が帯びてきている。
「今、考えたんだけど、・・・・・・。これなら上手く行くでしょ」
「なるほど、……………。これなら上手くいくかも知れないな?」と、夫は力無くつぶやく様に言った。
次の日の夜、博人は、
「お父さんは、多額の借金をしてその返済が出来ない。
もう家族はバラバラになるしか無い。お父さんには生命保険が入っているから、お父さんが自殺するので、借金をお父さんの、その保険金で払ってくれ」
と、深刻な表情にも関わらず、明子に淡々と語った。
「お父さんだけ、死なせるわけにはいかないわ。
私も、一緒にいくわ。いいでしょう」
と、妻の律子は感情を押し殺すかの様に博人に言った。
まるで女優の様に。
その会話を聞いた明子は、何が起こっているのか、判断出来なかったが、両親が「死にたい」と、言っている事だけは、理解出来た。
大人びていると言っても、まだ13歳である。
物心ついてから、10年ぐらいしか経っていない。
子供が、この様な両親の会話を聴いても、直ぐには理解できないのは、当然と言える。
「お父さん、お母さん、一体何を話しているの?」
と、悲しげに明子は聞いた。
「お父さんね。悪い人からお金を借りてしまったの。
返す事が出来ないと、その人達、何をするか判らないの?
お母さんさんだって、危険な目にあうの。明子もそうよ。
どんな事されるか判らない。怖い人達なのよ」
と、律子は明子に判る様に話しをした。
「お父さん、怖いの?それで死んじゃうの?」
と、少し涙ぐんでいる。
博人は、俯き明子の顔を見る事は出来ない。
「お父さんは自殺する」
と、明子に聞こえる様にはっきりと言った。
「お母さんも、死んじゃうの?」
と、明子の目から涙が停めども無く流落ちる。
「そうよ、明子。一人になるね!でも、保険金で返す事できるから、明子は心配無いわ。これから明子は一人で暮らすのよ。
判る。一人で暮らすのよ!」
と、律子は力強く明子に言った。
「そんなのイヤよ。私も一緒に死ぬわ。」
と、少女は母に抱きついた。
少女の体は既に、母よりも大きくなっている。
だが、まだ13歳だ!物事の判断も明確には出来ない。
律子は明子の背中を優しく撫ぜながら、言った。
悪魔の声で。悪魔の気持ちを押し殺して。
「明子、一緒に死ぬ?」
「うん、お父さんとお母さんと、一緒なら、怖く無いよ。
私も、みんなからイジメられてるし、みんなから、無視されてるし。生きていても仕方無いよ」
と、泣きじゃくる娘を抱きながら、律子は言った。
「じゃ、明子は後悔しないね。」
その言葉は、まさに悪魔の言葉であった。
そして、明子に差し出されて物は、睡眠薬だった。
先ずは、父が大量の睡眠薬を飲んで見せた。
そして、明子に本物の睡眠薬を飲ませ、母が次に飲んだ。
三人は明子を真ん中にして静かに眠りについた。
だが、明子以外に本物の睡眠薬は無かった。
明子は眠りにつくかの様に、静かに死んで逝った。
律子と博人は、明子を明子の部屋に運んだ。
そして、夜が明けるのを静かに待った。
悪魔の二人である。
自分が生き残る為に、子供を犠牲にする。
その様な二人である。そして、二人は何食わぬ顔で警察に連絡をした。
警察からの捜査では、明子の遺書が発見され睡眠薬も父の物を無断で飲んだと思われ、事件性は無いと判断された。
明子の遺体は、穏やかな表情で、両親を待つかの様に眠っている。
悪魔の二人は、何事も無かったかの様に、微笑みを浮かべていた。
その後の二人は、借金の返済が済み、優雅に暮らしていると、噂されてはいるが、その消息は誰も知らない。
完
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