信頼できる言葉

1/1
前へ
/30ページ
次へ

信頼できる言葉

最初に女性が 「記憶、失くしたんだって?私の事も水原君、覚えてないの?」 と、唐突に言われた。 私は、どの様に言葉を返して良いのか分からないまま、 出た言葉が、 「思い出せないです。貴女と過ごしたあの日の事を。」 と、意味深な事を言ってしまった。 また、どこかで聞いたような言葉でもある。 男が「君達はそう言う関係だったのか?」 と真剣に言った。 勿論、この男の事も覚えていない。 また違う男が、名刺を出して言った。 「水原君、僕を覚えていないかい?  原田伸之 だよ。」 名刺には、 ◯◯大学教授 原田伸之 と書いてある。 全く、記憶に無い。私とどの様な関係であったのかは、 名刺を見る限り推測できるが、全く覚えてはいない。 三人は自己紹介をした。まるで初めて会ったみたいに。 もう一人の男も教授であった。 名刺には、清水国明 と書いてある。 女性は、名刺を持っていなかった。 教授ではなく、事務員だと言っていた。 名前は 千秋直美 と言った。でも、歌手では無さそう。 三人とも、僕の事をよく知っている人達と言う事だった。 直美さんが言うには、 「水原君は優秀な学生で、無口な人でしたよ。 冗談も言う事も無かったし。あんまりものを言わない人だった。 でも、私にはよく話してくれたよ。 嫌なことや、困った事があったら、私に相談しに来たし、 水原君は私の事を『お姉さんみたいに、感じている』と 言ってたよ。 本当に、私の事覚えてないの?」 と、感情のこもっている言葉は、僕の心に響く。 今までは、どんな人の言葉も疑いを持ち聞いていたが、 今日は違う。 皆さんの言葉を信じて聞こうと思った。 私は無口な男だったとの事。 意外な事実である。 心の中ではいつも絶叫しているのに! さらに三人との会話は続く。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加