小山内教授

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小山内教授

清水が言った。 「僕の知っている水原君は、授業で分からない所が有ると、 僕の部屋まで来て、質問するんだ。よく来ていたよ。」 原田も言った。   「僕もそうだった。君は授業中の態度も真面目だし、真剣な態度は好感持てたよ。 勉強熱心な学生で、分からない所は絶えず僕に質問してきたよ。 水原君、本当に覚えて無いの?」 私はその言葉には、答えられ無い。 答えられない事を聞かれるのは、本当に辛い事だ。 「僕は、小山内教授と、どの様な研究をしていたのでしょうか?」 この事が、僕の最も知りたい所だ。 原田が言った 「小山内教授は変わった人で、教授の人達との交流も余り無い人で 何を考えているのか、何も分からなかった。 小山内教授の事、清水君何か知ってる?」 「僕もあまり知らないのですが、『記憶に関わる事を研究している』と、水原君が言っていたよ。 でも、それ以上は水原君は何も言わなかった。むしろこちらが、 小山内教授の事を聞きたいぐらいだ」 と、清水教授に逆に僕が質問された。 すると、直美さんが言った。 「私、水原君から、小山内教授の事を聞いた事あるよ。 『小山内教授には、女性がいる』と言う事、聞いたよ 『その女性から、援助を受けている』って、水原君が言っていたよ」 三人の男達が驚いている。 小林教授が 「小山内君が援助交際⁉️しかも女性から、、、。羨ましい。」 嫉妬とも、羨望ともとれる言い方だった。   「その様な援助では無くて、研究費用の援助です。」 と直美さんはキッパリと否定した。 「どっちにしろ、羨ましい」と更に小林教授。 「そう言えば、小山内さん大学の講義を休講していたな。 どっちみち、学生に人気のない人だったし、講義をしても 受ける学生も少なかった、。」 と、原田さんが言った。 ここで、大林さんが口をはさむ。今までの流れで、存在感が薄かったが、存在はしていた。 「僕も知っていますよ。小山内先生の事。 あの人、何を言っているのか 分からなかった人だ。授業を受けても面白く無いし、 学生には、全くと言って良いぐらい人気が無かったです。 水原君だけが小山内先生の事を、褒めていました。」 清水教授が不思議そうに 「援助してくれる、女性って、どう言う素性の人だったのか 気になるね。」 と言った。 すると、直美さんが 「その女性は、『小山内さんとは、昔からの知り合いで、ホステスだった』と、水原君は言ってました。 水原君も『その女性に会った事がある』と言ってましたよ。 綺麗な人らしいです。」 「羨ましい。」と小林教授。 よほど、小林教授は、小山内教授に嫉妬しているのであろう。 「水原君覚えて無いのかね!その女性を。」 と小林教授に強い語調で言われた。 僕は女性を覚えてはいないし、知りたいのは、何の研究かと言う事だ。 僕はむっとして、言った。 「小山内教授は、女性から研究費の援助を受けていた。 記憶に関する研究をしていた、と言うところまでは分かりました。 研究の場所も、この大学ではなく別の場所でしていた、と言う事ですね。 小山内教授が大学を辞めたのはいつですか?」 「確か4、5年ほど前だったかな、小山内君大学辞めたの」 と、原田教授が言った。確かと言いながら、曖昧な言葉。 「覚えてないね。自然に居なくなったと言う感じだった。」 と清水教授。 「あいつ上手いこと、、、。やったな。  私も、援助を受けたい。それも、美人の女性から」 (誰の発言か容易に想像出来ると思います) 小林教授は小山内教授を嫌いだったのだと、僕はその時感じた。 「その、小山内教授の研究は記憶に関する事ですね。 小山内教授は何を専門にしていたのですか? 記憶の研究と言うのを聞くと、医学的な研究に思えるのですが?」 「彼は医学をやってはいない。 ロボットなどを開発している、エンジニアだ。 人口知能とかそう言うものを、研究開発していた。 その分野では素晴らしい才能があるのだが、それを人に上手く伝える事ができない。 そう言う意味では、水原君は小山内君には欠かせない学生だったと思うよ。」 と小林教授が言った。 (こう言う事を僕が知りたかったのに、、、。もっと早く言ってよ) と思った。 「小山内教授は今どこにいるのでしょうか?」 と尋ねたが、誰も知らなかった。 僕のことを聞いてみた。 「僕の両親の事、妹の事について聞きたいのですが、、、、」 直美さんが不思議そうに言った。 「何、両親と妹の事って?」 「実は僕が記憶を失った原因が、はっきりとは分からないのです。 警察は交通事故だと言うし、医師は暴行を受けたものだと言う。 交通事故なら、偶然で済むのですが、暴行だとしたら、 私が研究していた事に、関係するのでは無いかと思うのです。 小山内教授も行方不明だし、連絡も取れません。 僕は此処に来るまで、自分が本当の水原学かどうかも、疑ってました。 でも、皆さんが私の事を覚えていてくれたので、水原学だと自分を思える様になったのです。 僕には、妹がいるのでしょうか? 妹さえも、信じる事が出来ないのです。両親もです。」 一同は驚いていた。記憶喪失とは、これだけ複雑な思いをするのかと。 自分の両親、妹さえも疑わなければいけないのかと。 直美さんが言った。 「本当に可哀想だわ。  水原君とは色んな話したけど、家族については何も言わなかった。 何か辛い事があったみたいで、、、。 私も家族の事を聞くのを遠慮したの。」 大林も、 「水原から妹が居るとは聞いてはいないな。」 結局、家族の事は不明だった。 僕は無口な男だったのだろう。 こんなところで災いするなんて!
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