episode.1 ナツ 〜夕闇と星河の交わる頃に〜

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
満員電車を避けた各駅停車に揺られ、家に帰ってきた。昨日チェックを忘れた郵便受けはどうでもいいチラシばかり。わざわざ持ち帰らなくて済むようにと、大家さんが用意してくれたチラシ専用のゴミ箱へ……と捨てる直前、懐かしい声が聞こえた気がした。 ちいさな封筒に書かれた名前は、もう二度と会えないと思っていた人だった。今を生きるために思い出したくなくて、心の深く深く奥底へ閉じ込めたんだ。そんな人から、まさか手紙が来るなんて。 部屋に戻り、震える手で封を剥がす。 「そっか……」 急いで上司にメールを送り、何着か服を引っ張りだす。幸い出張も多い仕事だから荷造りも慣れている。後はロマンスカー使った方が良いかな? うん、やっぱり少しでも早い方が良い。急げばまだギリギリ「ほしまつり」に間に合うかもしれない。 新宿駅で乗り換えて飛び乗った藤沢行き。どうやら直通はこの時間やってないみたい。もどかしさを抱えつつも一息つき、もう一度手紙の文面を読み返した。 "また、星空部の皆で集まろう" ずっと心海の中で繰り返していた季節がまた、動き出そうとしている。車窓から見えた天の川を今から渡るような気持ち。距離は近いはずなのに、そこに居るって分かっているのに、ずっと訪れる事ができなかった場所。そう、君がいる場所へ、君がいる海へ……
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!