全力爆速

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「そのシャツ、ボタンを二つも開けてだらしないだろう」  雪華のネクタイを弾いて倉橋は大袈裟にため息を吐く。 「お前も……シャツの裾はスラックスの中に入れろ」  そのままるぴにも視線を移してシャツの裾を引っ張った。  シャツも出ていてネクタイさえ着けていない俺は雪華たちの背を見ながら内心ヤベぇ、と言われるであろう嫌味に備える。だが、 「、クラスと名前は?」 「えっと……二年……」 「あ、倉橋先生っ!」  雪華が口を開きかけたタイミングで、廊下の向こうから養護教諭のゆめちゃんがパタパタと走ってきた。 「ゆめちゃんが走るのは注意しねぇのな」  俺のボソッと零した呟きは雪華に後ろ手でバチンと封じられる。 「今日の科会のことでお聞きしたいことがあるってさっき木村先生が探してましたよ!」 「あぁ、そうですか。それはわざわざありがとうございます」  ゆめちゃんがさっと俺たちと倉橋の間に入って微笑むと、倉橋は歪んでもいないネクタイを直して姿勢を正した。 「今日は部会も科会もあってお忙しいですよね?しっかりお昼は召し上がって下さいね」  笑顔で話しながらもゆめちゃんは腰の後ろで俺たちに向かって手を払う。  それを見て、俺たちはそろそろとその場から離れた。 「「ゆめちゃん、ナイスっ!」」  姿が見えないところまで来てハイタッチをする雪華とるぴ。  だが、俺はそれに加わる気にはなれなかった。
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