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全力爆速
啓西高校の四時間目。
授業が終わる五分前になると生徒たちは落ち着かなくなる。
「はいはい。じゃあ、終わろうか?次は活よ……」
「いよっしゃぁぁぁっ!!」
右手の拳を突き上げて俺、東南が喜びのままに叫ぶと、教室の中にくすくすと笑い声が漏れた。
「「バーカ」」
前と後ろから同じセリフを吐かれてガタンっとイスを鳴らすと、
「東くん!次、活用形の表、前で書いてもらうからね」
目を細めている国語教師で男バス顧問でもあるあおちゃんと目が合う。
「そんなぁぁぁっ!!あおちゃん、勘弁して〜ぇっ!!」
立ち上がって両手を擦り合わせると、あおちゃんがフッと笑った。
「「バーカ」」
もう一度、前後から同じセリフを吐かれて睨むと、号令がかかって俺も慌てて頭を下げる。
「っし!」
「行くぞ」
そのセリフの主たちに両側から肩に腕を掛けられて、そのまま後ろの扉の前にスタンバイした。
右隣に居た雪華がガラガラと戸を開けて、左隣のるぴが僅かに廊下へ顔を出す。
教室の中もしーんと静まるこの時間。
キーンコー……
音と共に俺たちは廊下へと飛び出した。
「こらっ!!廊下は走るなっ!!」
英語科主任で生徒指導の倉橋が廊下で仁王立ちになっていたが、クルッと向きを変えてすぐ脇の階段を駆け下りる。
「「先行くぞ!」」
るぴと雪華から遅れた俺は二人の背中を見ながら必死にその後を追った。
足の長さはどうにもならない。だが、
「とりゃっ!!」
残り八段の階段を下まで降りて向きを変えるなんてしていられなくて、手すりを持ってそのまま反対側へ跳ぶ。
階段を駆け下りて廊下を走ってきた雪華の背中に飛び乗ると、
「サルかっ!!」
るぴに頭を叩かれて、俺たちはそのまま目的地へと走った。
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