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 娘に続き、エルフィンが部屋を出ようとした時、こちらを振り向いた。 「そうそう、言い忘れてましたが、彼は、内なる感情が高ぶると狂戦士化する可能性もありますから、気を付けて下さいね」 「狂戦士……化?」 「って事で、よろしくお願いしますよ、レティ」 「……って、狂戦士化って、めちゃくちゃやばい状態じゃないっ‼ そんな事、出ていく直前に言うなーっ‼ って、もういないっ‼」  恐らく、彼女に文句を言われると分かっていたのだろう。早々に立ち去ったリーダーに、スカーレットは地団駄を踏んだ。  彼女自身、盗賊スキルで狂戦士化したカメリアから逃げられるため、それ程恐れてはいない。    しかし、その被害が周囲に及ぶと面倒になるので避けたかった。  その時、 「ここは?」 「げっ……」  後ろから聞こえた低い声に、思わず声を上げてしまった。  その声に反応し、ベッドで横たわっていたカメリアが身体を起す。周囲を見回し、部屋にいるのが自分とスカーレットだけだと気づくと、ぱっと笑顔が咲いた。  普段、無表情な彼から想像できない、少年っぽく明るい笑顔。  細い目がさらに細くなり、口角が上がった口元からは歯が見えている。 (カメリアが……、笑ったっ‼)  衝撃的な現場を見てしまった時と同じような表情を浮かべながらも、彼の笑顔から目を逸らせなかった。  彼女がじっと視線を向けてくることに気づいたカメリアは、少し照れくさそうに視線を外した。 「そんなに見るな。恥ずかしいだろ」 (恥ずかしいっ⁉ まさかそんな単語が、こいつの口から聞く日が来るなんてっ‼ 明日は、封印されしモンスターが復活するかもしれない! 世界やばい!)  心の中で突っ込みを入れるが、どうしてもそれを言葉にできない。いつもなら、思った事はポンポンとぶつけるのだが、どうも調子が狂う。  カメリアも、彼女の様子がおかしいと気づいたのだろう。 「どうした? いつもと様子が違うようだが」  ベッドから降りると、彼女の前に立った。  心の準備が整っていないスカーレットは、言葉に詰まる。 「えっと……、いや、別に……」 「そうか? いつもなら、もっと色々と話しかけてくれるだろ? お前がいつもと違うと心配だ。前から気になっていたが……、肌の露出が多い服だから、風邪でも引いたんじゃないのか?」  そう言いながら手を伸ばしてきたが、それを避けると、乾いた笑いを上げながら答えた。 「あはは……、そっ、そんなことないわ。別に寒いわけじゃないし、これくらいの服装の方が、盗賊として動きやすいし」  そう言って、自分の服装を改めて見る。  盗賊スキルを使うのに邪魔にならない袖のない服に、動きやすさ重視のショートパンツ、特別に防御魔法が付加された黒いタイツを履いている。  別に自分だけが軽装なわけではなく、大体女性盗賊は同じような服装で冒険に出ている。  しかしカメリアは顔をしかめると、着ていた上着をスカーレットに羽織らせた。 「今は盗賊スキルなんて使わないだろ。これ着ておけ」 「別にいいって‼ 寒くないし、風邪でもないから‼」  慌てて上着を脱いで返そうとするが、その手はさらに大きな手によって押しとどめられた。 「いいから着ておけ。体調もあるが……、あまりお前の肌を他人に見せたくない」  次の瞬間、スカーレットは部屋の出口にいた。  恐怖に大きな瞳を見開き、得体の知れないモンスターを見る様な表情で、カメリアを見つめる。  ドアを握る手は時折震え、もしよく観察できたなら、露出した腕に無数の鳥肌が立っているのが分かっただろう。  しばし沈黙後、 「……あ、あたし、着替えて来る。袖のある服着て来るから……。そ、それ以上何も言わないでくれない?」  わなわなと震えた声で伝えると、スカーレットは姿を消した。  一人部屋に残されたカメリアは、こらえきれずに噴き出した。口元を拭いながら、スカーレットが去ったドアを、愛おしげに見つめる。 「あんな言葉に照れるなんて……、レティは可愛いな」  しかし彼は気づいていなかった。  自室に戻ったと思っていた彼女が、実は外でドアに張り付き、聞き耳を立てていた事を。 (れっ……、レティ……って呼ばれるなんて……。どれだけ言っても頑なに呼ばなかったあたしの愛称を……)  そして彼の言葉を聞き、恥ずかしさで息も絶え絶えになりながら、自室に戻った事も。
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