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 スカーレットとカメリアの姿は、町の大通りに並ぶ商店通りにあった。  冒険者ギルドがある町なので、冒険者を客とする店が、たくさん立ち並んでいる。  いつもなら、買う気がなくてもウィンドウショッピングを楽しむ彼女だが、その横で嬉しそうに歩いている彼の存在が、楽しむ余裕を与えてくれなかった。  心の中では今、 (こいつは、カメリアじゃない……。別の人間だ……。カメリアじゃない……。別の人間なんだ……) と、彼をカメリアと思わないようにして、平常心を保とうと必死だ。  いつもの無口な彼ではなく、感情豊かな別人だと思えば、何とか付き合えると思ったからだ。  しかし、 「レティ、お前の好きな氷菓子があるが、一つ買ってこようか?」 「あっ、えっと……、いい。お腹一杯だから……」 「そうなのか? いつもなら食事後も『甘い物は別腹』と言って食べてるだろ? やはり、どこか具合が……」 「悪くないからっ! どこも悪くないからっ! 頻繁に額に手を当てて熱を測ろうとするのは止めてっ!」  こちらに手を伸ばす彼の手をペチッと払うと、スカーレットは必死で逃げた。  こうやって何かと絡んでくるので、中々平常心が保てない。それも内容が、彼女の心配ばかりで思わず、 (母親かよっ!) と、心の中で突っ込んだのは言うまでもない。  もちろん、彼と二人で買い物に出る事はよくある。その際はスカーレットが彼に話しかけることが多かった。  しかし指輪の呪いのせいで、今は立場が逆になっている。  カメリアは嬉しそうに表情を緩ませ、絶え間なく話しかけて来るのだ。  その様子に、彼女は思わず呟いてしまった。 「カメリア……。今日のあんた、ほんっとお喋りよね? いつもは無口なのに……」  しまったと思ったが、無口を指摘された彼は少し困った表情を浮かべて呟きに答えた。 「まあ、狂戦士の副作用で、言いたくても言葉に出せなかったからな。別に俺自身、無口なわけじゃないぞ?」 「えっ? そうなの?」  意外な答えに、スカーレットの表情に驚きが浮かぶ。彼女が反応を見せてくれて嬉しかったのか、カメリアは言葉を続けた。 「さっきエルフィンが言っていただろう。狂戦士は職業の副作用で感情が上手く出せないが、心は普通の人間のままだと」 「……つまり、心では色々と思っていたけど、ただそれを口や表情に出せなかっただけってこと?」 「そういうことだ。狂戦士になる前は、これでもお喋りな方だったんだが」 「……信じらんない」  彼女がカメリアと出会った時には、彼はすでに狂戦士だったため無口だった。そんな彼が、昔はお喋りだったなど、想像できなかった。  そんな彼女の様子が面白いのか、カメリアは小さく笑った。 「狂戦士だと、皆があまり話をしてくれない。でも……、レティはそんなこと関係なくたくさん話しかけてくれるから、とても嬉しい」 「え? 嬉しいって……。あたしとあんたは常日頃から喧嘩や言い合いばっかりしてたし……、どっちかというと、あんたがあたしのことを良く思ってないんじゃ……」 「喧嘩? してたか?」  カメリアはきょとんとしている。  スカーレットは慌てて彼の腕を掴むと、先ほど交わした酒の話や誕生日プレゼントの言い合いについて持ち出した。 「いやいや! さっきも酒場で色々と言い合いしてたじゃない! あたしの笑いの沸点が低いとか! あたしだって、表に出ろとか言ってたし!」 「あれ、喧嘩だったのか? 俺は普通に会話を楽しんでいただけなんだが」  両者の認識に違いに、カメリアを掴んでいた手が落ちた。そして信じられない様子で、両手をこめかみに当て、必死で考えている。  今まで喧嘩仲間だと思っていた相手が、まさか喧嘩しているという認識がなかったと分かり、混乱しているのだ。 (え? 今までの喧嘩って喧嘩じゃなかったの? カメリアがあたしを良く思ってないっていうのも、あたしの勘違いって事?)  カメリアと自分は馬が合わないという認識が、崩壊するのを感じた。  そうなって来ると、彼が今までうるさく注意や指摘をして来た意味も変わって来る。 (今まで嫌味とか思ってたけど……、もしかして……、あたしを純粋に心配して……?)  ぶわっと頬に熱が上がるのが感じられた。しかし、すぐに指輪の存在を思い出すと、その考えを否定した。 (違う! 今のカメリアは、カメリアじゃない! 指輪の呪いが解ければ、そんな気持ちもなくなるんだから!)  ぎゅっと唇を噛み、ざわつく心を落ち着かせるため、大きく呼吸を繰り返す。が、  「すまなかったな、レティ。俺のせいで誤解を与えていたようだな」  心を落ち着かせる試みは、すぐに中断させられた。  目の前すぐに、カメリアの顔があったからだ。眉根を寄せ、申し訳なさそうにしている。  しかしすぐその表情を変えると、スカーレットの両手を握った。  突然手を握られ、反射的に払おうとしたが、カメリアの大きく力強い手がそれを許さない。 「俺は今まで一度も、レティを嫌だとか嫌いだと思ったことはない。こんな俺に、いつもたくさん話しかけ、他と態度を変えずに接してくれることが、本当に嬉しかった。そんなお前を、俺はずっと好きだった」  好き、と言う言葉に、彼女の熱が頬を通り越して耳たぶまで上がった。  先ほどまでは、その告白に抵抗し拒んでいたのだが、今は何故かその言葉が直接心に届き、気持ちをかき乱していく。  しかし再び指輪の件を思い出すと鋭い視線を向け、彼の告白を否定した。
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