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「カメリア、あんたのその気持ちは、指輪の呪いによるものなの。もし呪いが解ければ、あたしのことが好きと言う気持ちもなくなるはず」 「レティ……、お前、何を言って……」  カメリアの手がゆっくりと離れた。細い瞳を見開き、苦しそうに言葉を発している。  しかしスカーレットは首を横に振ると、諭すように彼の肩に手を置いた。 「呪いが解けた時、あんたは後悔するわ。あんた真面目だから、思ってもなかった事を言ってしまったって、ずっと気にすると思う。あたしはこれからも皆と一緒に冒険をしたい。こんなので、関係をギクシャクしたくないの。だから、もうそんな話はしないで」  自身に言い聞かせるようにカメリアの肩を軽く叩き、そのまま彼の先を行こうとした時、 「待て、レティ!」  大きな手がスカーレットの肩を掴むと、強い力で引き戻した。カメリアの左手が彼女の左手首を掴み、大きな身体へと引き寄せる。  冷静なカメリアが発した大声と、少し乱暴ともいえる行動に、スカーレットの身体が固まった。  目の前には、怒りのために目が座り、厳しい表情を浮かべるカメリアの姿があった。 「お前、俺の言葉全てが、この指輪のせいだと思っているのか?」 「だってエルフィンが、この指輪は精神に影響を与える物だって言ってたし、そうとしか考えられないじゃない!」 「指輪の呪いは、俺の言葉と関係はないっ!」  彼の怒りの表情が、みるみるうちに悲しみ一色に変わった。 「お前に笑顔を向けられると、何とも言えない幸せな気持ちになる。他の男と話しているとイライラするし、でも楽しそうに話しかけてくれると、全てを許す気になってしまう。そして、こうやって一緒に歩いているだけで……、愛しさが込み上げてくる……。この気持ちは、魔法でも呪いでも何でもない。信じて欲しい」 「しっ、信じろって言われても……」  スカーレットは、視線を逸らすと言いにくそうに言葉を紡ぐが、その頬は朱に染まっている。ストレートに気持ちを伝えられ、心が恥ずかしさと拒む苦しみに挟まれて辛かった。  しかしカメリアは、空いている右手で彼女の頬に触れると、自分に視線を向けさせた。真っすぐな瞳が、スカーレットを貫く。 「呪いが解けてもこの気持ちは変わらない。信じてくれないなら何度でも言おう。お前が好きだ。ずっとそばにいてくれ!」 「かっ、かめりあ⁉」  慌てた声が響き渡った。  突然、カメリアがスカーレットを抱きしめたからだ。厚く筋肉に覆われた身体が、彼女を包み込む。  抱きしめられたこと、そして切実な彼の言葉に、心が揺れた。 (ほっ、ほんとに? 本当にカメリアは、あたしを……?)  散々否定してきた彼の言葉を、混乱する心が、肯定へと改変していく。 「あっ……、あたしは……」  それでも、否定しなければならない。そう必死で考えるが、言葉はそれ以上出てこなかった。  その時、異変が起こった。力強く抱きしめていた腕が、外れたのだ。  次の瞬間、カメリアの身体が地面に倒れた。  突然の出来事に、スカーレットはすぐに反応できなかった。彼女の代わりに反応したのは、告白をニヤニヤ見守っていた周囲の人々だった。 「なっ、何があったんだ⁉」 「突然、男の人が倒れたの!」 「もしかして、あの女性が何かしたのか?」  様々な憶測が飛び交う。自分が加害者かもしれないという言葉を聞き、スカーレットは正気を取り戻した。  慌てて倒れたカメリアに駆け寄ると、その身体を揺すった。 「カメリア! カメリア‼ 一体どうしたっていうの⁉」  理由の分からない異変に、心が不安で満ちた。  ふとカメリアの左手に光る物を見つけ、何かを探った。それは、 「指輪が……、光ってる……」  カメリアが着けた時しか光らなかった指輪が、輝きを放っていた。理由は分からないが、それがカメリアの異変と関係することは、彼女にも分かる。  しかし指輪が外せない以上、彼の身体を宿屋に運ぶ事しかできない。 (あたし……、何もできないんだ……)  そう思うと無力感が襲った。悔しくなり、唇を噛んで俯く。  その時、 「お父さん、カメリアが倒れてるよ‼」 「レティー! レティ――‼ 一体どうしましたか⁉」  聞き慣れた親子の声に、スカーレットは反射的に顔を上げた。  目の前には、心配そうなミモザと、厳しい表情を浮かべるエルフィンの姿があった。 「……え……、えるふぃん……。カメリアが……、カメリアがっ……」  状況を説明しなければならないのに、それ以上言葉が出ない。声はかすれ、二人の姿がぼやけて来るのが分かった。  エルフィンはスカーレットの説明を待たずに、すぐさまカメリアに近寄ると、左手の指輪を見た。  そして、小さく舌打ちをする。 「カメリアの生命力が、この指輪によって吸われています。今すぐ指輪を外さないと、カメリアの命が危ないです」 「え……? カメリアが……、死んでしまうってこと……」  スカーレットの身体から、力が抜けた。自分が軽はずみでやった事が、一人の青年の命を奪う後悔、そして、 (嫌だ……。あいつがいなくなったら……、嫌だ……)  いつものように喧嘩をし、ぶつかり合っていた相手がいなくなる、喪失感が心の柔らかい部分を突き刺していく。    その気持ちは、瞳から零れる雫となって地面に染みを作った。
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