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7
「カメリア、あんたのその気持ちは、指輪の呪いによるものなの。もし呪いが解ければ、あたしのことが好きと言う気持ちもなくなるはず」
「レティ……、お前、何を言って……」
カメリアの手がゆっくりと離れた。細い瞳を見開き、苦しそうに言葉を発している。
しかしスカーレットは首を横に振ると、諭すように彼の肩に手を置いた。
「呪いが解けた時、あんたは後悔するわ。あんた真面目だから、思ってもなかった事を言ってしまったって、ずっと気にすると思う。あたしはこれからも皆と一緒に冒険をしたい。こんなので、関係をギクシャクしたくないの。だから、もうそんな話はしないで」
自身に言い聞かせるようにカメリアの肩を軽く叩き、そのまま彼の先を行こうとした時、
「待て、レティ!」
大きな手がスカーレットの肩を掴むと、強い力で引き戻した。カメリアの左手が彼女の左手首を掴み、大きな身体へと引き寄せる。
冷静なカメリアが発した大声と、少し乱暴ともいえる行動に、スカーレットの身体が固まった。
目の前には、怒りのために目が座り、厳しい表情を浮かべるカメリアの姿があった。
「お前、俺の言葉全てが、この指輪のせいだと思っているのか?」
「だってエルフィンが、この指輪は精神に影響を与える物だって言ってたし、そうとしか考えられないじゃない!」
「指輪の呪いは、俺の言葉と関係はないっ!」
彼の怒りの表情が、みるみるうちに悲しみ一色に変わった。
「お前に笑顔を向けられると、何とも言えない幸せな気持ちになる。他の男と話しているとイライラするし、でも楽しそうに話しかけてくれると、全てを許す気になってしまう。そして、こうやって一緒に歩いているだけで……、愛しさが込み上げてくる……。この気持ちは、魔法でも呪いでも何でもない。信じて欲しい」
「しっ、信じろって言われても……」
スカーレットは、視線を逸らすと言いにくそうに言葉を紡ぐが、その頬は朱に染まっている。ストレートに気持ちを伝えられ、心が恥ずかしさと拒む苦しみに挟まれて辛かった。
しかしカメリアは、空いている右手で彼女の頬に触れると、自分に視線を向けさせた。真っすぐな瞳が、スカーレットを貫く。
「呪いが解けてもこの気持ちは変わらない。信じてくれないなら何度でも言おう。お前が好きだ。ずっとそばにいてくれ!」
「かっ、かめりあ⁉」
慌てた声が響き渡った。
突然、カメリアがスカーレットを抱きしめたからだ。厚く筋肉に覆われた身体が、彼女を包み込む。
抱きしめられたこと、そして切実な彼の言葉に、心が揺れた。
(ほっ、ほんとに? 本当にカメリアは、あたしを……?)
散々否定してきた彼の言葉を、混乱する心が、肯定へと改変していく。
「あっ……、あたしは……」
それでも、否定しなければならない。そう必死で考えるが、言葉はそれ以上出てこなかった。
その時、異変が起こった。力強く抱きしめていた腕が、外れたのだ。
次の瞬間、カメリアの身体が地面に倒れた。
突然の出来事に、スカーレットはすぐに反応できなかった。彼女の代わりに反応したのは、告白をニヤニヤ見守っていた周囲の人々だった。
「なっ、何があったんだ⁉」
「突然、男の人が倒れたの!」
「もしかして、あの女性が何かしたのか?」
様々な憶測が飛び交う。自分が加害者かもしれないという言葉を聞き、スカーレットは正気を取り戻した。
慌てて倒れたカメリアに駆け寄ると、その身体を揺すった。
「カメリア! カメリア‼ 一体どうしたっていうの⁉」
理由の分からない異変に、心が不安で満ちた。
ふとカメリアの左手に光る物を見つけ、何かを探った。それは、
「指輪が……、光ってる……」
カメリアが着けた時しか光らなかった指輪が、輝きを放っていた。理由は分からないが、それがカメリアの異変と関係することは、彼女にも分かる。
しかし指輪が外せない以上、彼の身体を宿屋に運ぶ事しかできない。
(あたし……、何もできないんだ……)
そう思うと無力感が襲った。悔しくなり、唇を噛んで俯く。
その時、
「お父さん、カメリアが倒れてるよ‼」
「レティー! レティ――‼ 一体どうしましたか⁉」
聞き慣れた親子の声に、スカーレットは反射的に顔を上げた。
目の前には、心配そうなミモザと、厳しい表情を浮かべるエルフィンの姿があった。
「……え……、えるふぃん……。カメリアが……、カメリアがっ……」
状況を説明しなければならないのに、それ以上言葉が出ない。声はかすれ、二人の姿がぼやけて来るのが分かった。
エルフィンはスカーレットの説明を待たずに、すぐさまカメリアに近寄ると、左手の指輪を見た。
そして、小さく舌打ちをする。
「カメリアの生命力が、この指輪によって吸われています。今すぐ指輪を外さないと、カメリアの命が危ないです」
「え……? カメリアが……、死んでしまうってこと……」
スカーレットの身体から、力が抜けた。自分が軽はずみでやった事が、一人の青年の命を奪う後悔、そして、
(嫌だ……。あいつがいなくなったら……、嫌だ……)
いつものように喧嘩をし、ぶつかり合っていた相手がいなくなる、喪失感が心の柔らかい部分を突き刺していく。
その気持ちは、瞳から零れる雫となって地面に染みを作った。
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