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 その時、 「ミモザ、レティ。お待たせしました」  宿屋に続く階段から降りて来たのは、にこやかに手を振るエルフィンだった。彼は二人のテーブルに駆け寄ると、ミモザの横に座った。 「ミモザの事を、ありがとうございます、レテ……」 「そんなことより、カメリアの様子は?」  少し前のめり気味に、カメリアの容態を訪ねるスカーレット。  彼女を落ち着かせるように、エルフィンは右手のひらを動かした。微笑みを浮かべ、大事がなかったと伝える。 「彼は大丈夫ですよ。先ほど意識を取り戻しました。指輪の呪いも抜けていますから、もう命に危険はありませんよ」 「ああ、よかった……」  息を吐き出し、スカーレットは嬉しそうに呟いた。その表情には、心からの安堵が浮かんでいる。  カメリアの件が解決したら、指輪の件が気になった。両腕を組み少しだけ姿勢を崩すと、眉根を寄せて真相を尋ねた。 「それで、結局あの指輪は何だったの?」 「ああ、あれですか……。あれは……」  少しエルフィンの言葉が、歯切れの悪いものになった。しかし、すぐに何でもなかったかのように、流暢な口調に戻る。 「あの指輪にかかっていた呪いは、私の予想通り、その場にいた異性に一時的に惚れてしまう精神魔法がかかっていたようです」 「ああ、やっぱりそうだったんだ……。で、カメリアが途中で倒れた原因は?」 「あの指輪には呪いとは別に、指輪の主の生命力を奪う魔物が取り付いていたみたいですね。それがカメリアの生命力を奪い、倒れたというのが理由のようです」  魔物という言葉に、スカーレットの表情が硬くなった。真剣な表情で、魔物の処遇を問う。 「で、その魔物はどうなったの?」 「ああ、もちろん私の方で祓いましたので、大丈夫ですよ。全て解決しましたから、安心してください」   「はいはいはーいっ! その魔物を祓うの、私もお手伝いしたんだよっ!」 「そうですね、ミモザ。とても助かりましたよ」 「えへへ~」  ミモザは父親に頭を撫でられ、とても嬉しそうにしている。  スカーレットには良く分からないのだが、エルフィンが強い魔法を使う時、ミモザが傍にいないといけないらしい。  少女が手伝ったという事は、 (指輪に取り付いていた魔物は、結構強かったんだ……。ほんと、危険だったんだ、あの指輪……)  突然倒れたカメリアの映像が、脳内に浮かび上がった。  いつも皆を守る為に戦士として身体を張る彼が、無言で倒れて動かない姿。  再びスカーレットの心が、罪悪感で苦しくなった。もし失われていたらと思うと背筋に寒気が走り、心がすっと熱を失う。 (もう、こんな思いをしたくない……)  二度とこのような事をしないと、結ばれた唇の奥で固く心に誓った。そんな彼女の気持ちを見透かすように、エルフィンの瞳が細められる。 「ああ、レティ。カメリアが話があるって言ってましたから、行って貰えますか?」  リーダーの言葉に、スカーレットの表情が一瞬硬くなった。  話となると、恐らく一つしかない。  彼女は一つ頷くと、テーブルを後にし、カメリアが待つ部屋へと向かった。
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