光の番人〜碧い月の伝説〜

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 大正9年、夏。  遥か北の海の向こうで大きな革命が起こり、その勢力を阻止する動きが連合国の間で強まると、シベリアという場所に国の兵隊さん達が派遣され、多くの命が消えていった。  そしてそんな不穏な時代の片隅で、ひっそりと母がこの世を去ってしまった。  当時10歳だった私は、母の死をなかなか受け入れることができなかった。  なぜなら母は病気でもなく、事故に遭ったわけでもない。  父の船で突然意識を失い、そのまま帰らぬ人となった。    亡くなる前の日、母はいつものように私と夕餉(ゆうげ)の支度をし、行商から帰った父と家族3人で食卓を囲んだ。  母は華奢で、一見か弱い女性に見えるけれど、夜漁(やりょう)に出る父を、いつも溌溂とした笑顔で見送る気丈夫な人だった。    何の前触れもなかったのかと言われれば、ただ一つだけ。  その時の母がいつもより美しく見えたのが、ずっと今も目に焼き付いている。    私の呼びかけに振り向く母の瞳が、刹那に赤く光る。見てはいけないものを見てしまった気がした。  父の徳利に酒をつぐ、母の色白の肌もなんとなく透けて見え、体の輪郭も薄く光を放って白くぼやけるようだった。    今思えば、あれが前兆だったのかもしれない。
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