光の番人〜碧い月の伝説〜

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 「うわぁー! 空と海がひっくり返ったみたいだ」    足の感覚を取られ、ぐらっとよろめく。  咄嗟に父が私の腕を掴んだ。  「碧っ、危ねぇから(へり)に掴まってろ」  「父ちゃん、なんで明かりを消したの?」  「黙って見てれば、すぐにわかる」    父は空を仰ぐと、目を凝らして何かを探している。  海水を張った桶の中では、儚い光を放ちながら烏賊達がひしめき、時おりキュッキュッと鳴いて潮を吹く。  まるで誰かを呼んでいるかのようだった。  海に視線を移すと、星粒が浮かぶ鏡の向こうは底知れない深い暗闇が広がっていた。  よく見ると微かに揺らぐ海底から、ポツリポツリと白く小さな斑点が姿を現し始める。  烏賊なのか、海月なのかはわからない。  その斑点は闇の中で滲むような燐光(りんこう)を発し、やがてじわじわと数を増して、船の上から見下ろす私の視界を埋め尽くそうとしていた。  気を抜くと体ごと吸い込まれてしまいそうで、こわくなった。  「父ちゃん! 海ん中がなんかおかしい! あたし達が烏賊さまを取り過ぎたせいじゃない? きっと返せって言ってるんだよ!」  「いいや。そうじゃねぇ」  「そいじゃ海月でもない、この得体の知れないものはなに?!」  「碧、父ちゃんの懐に入れ」  父は、たじろぎもせず甲板に腰をおろしたまま、私に腕を広げる。    「何言ってんの! 逃げようよっ父ちゃん!」  「いいから、入れ」    船腹に届いた白い光が屈折して、父の頬にかかる。  父はじっとその水面を見つめていた。  ただでさえ怖いのに、白く浮いたその顔が余計に拍車をかける。  これから何が起ころうとしているのだろう。  白い発光体は、今にも海面を突き破りそうなほど、暗闇を埋め尽くしていく。  またゾワリと背中が粟立ち、父の腕の中に逃げ込んで襟元(えりもと)にしがみつく。  「父ちゃん‥‥こわいよ」  「大丈夫だ。ここでじっと見守ってれば、なんもわるさはしない。輝玉(きぎょく)が返ってきたんだ」  「きぎょ‥く?」  「あぁ、御霊のことだ。肉体を離れた魂が、もといた場所に還る時、導き手にちゃんと見つけてもらえるよう強い光を放つんだ」  「えっ! それって、ゆっ幽霊だよね!!」  「しっ。デカい声出すな」  父は掌で私の口を塞ぐと、耳元で声を絞る。
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