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青い雫は、海に落ちる手前で大きく弾けた。
飛び散った雫の破片は、再び寄せ集まって細長くうねり、今度は光の尾を引いて一気に星屑の空へと舞い上がる。
そして、その全貌を月光にさらした。
ヒュッと息をのんだ。
目に映る光景がとても現実のものとは思えない時、人はほんとうに呼吸を忘れてしまう。
大きな白銀の鱗に、金色に光る爪。
細くたなびく長い髭。
銀の鬣を風に靡かせ、キラキラと何色もの光の粒を撒きながら、それはしなやかに夜空を揺蕩う。
「りゅ、竜神さまだ....」
信じられない。
私は母に会いたさのあまり、きっと頭がおかしくなってしまったのだと思った。
けれど何度瞬きして目を擦っても、その存在はいつまでも消えない。
「碧、あれが導き手だ」
父が掠れた声で言う。
「龍神さまが‥‥導き手なの?」
「輝玉を黄泉の国に導く、あの世とこの世を繋ぐ光の番人と呼ばれているんだ」
眩い光を放って夜空に浮き出る白銀の龍。
空に浮かぶ雲ほどの大きな体をくねらせながら、ひらひらと舞うように海に向かって降りてくる。
海面の少し上。その巨体で大輪を描くと、どこからともなく海風にのって、シャランと大きな鈴の音が鳴った。
その時を待っていたかのように、海面を覆い尽くしていた輝玉達の光が白から青に変わり、一斉に浮き上がっていく。
目が眩みそうなほど、辺り一面が青い光で埋め尽くされた。
「導き手の背にのって、黄泉の国に還るんだ」
父の声がふるえていた。
私はその光景から一寸も目が離せない。
辺りは波音もなく風も吹かない。時が止まったような静寂に包まれていた。
青い光達は龍の体に吸い込まれ、みるみる白い鱗が青い鱗に変わっていく
白銀だった龍は、目の覚めるような真っ青な龍に成り代わろうとしていた。
すると最後の一粒の青い光が、ト吉さんの肩に舞い降りる。
すぐに芯ちゃんの御霊だとわかった。
ト吉さんは芯ちゃんの気配に気付くも、手で触れることのできないもどかしさに、彼の名前を呼んで声をふるわせ始める。
芯ちゃんは、そっと寄り添うようにト吉さんの肩にしばらく留まると、別れを告げるようにゆっくりと龍のもとへ浮上していった。
ト吉さんは、空を見上げ何度も何度も芯ちゃんの名前を呼んでいた。
父が目を閉じて何度も頷く。刻まれた皺に涙の筋が流れる。
「これで良いんだ。ト吉さんもやっと前を向いて生きていける」
「父ちゃん‥‥」
「何故だかわからねぇが、この光景は何度見ても不思議な懐かしさに駆られて涙が出るんだ。黄泉の国は光の源とも呼ばれていて、魂はみんな同じ光の中で生まれて、この世に降りてくるらしい。芯達はそこに還っていくんだ。お前も、ばぁさんから聞いたことあるだろ?」
「うん。碧い月の伝説?」
「どうやら、あれは伝説なんかじゃないらしい」
突然、冷たい突風が吹き抜ける。
再び大きな鈴の音が、シャランと鳴り響いた。
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