はつこいのかくれんぼ

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「俺、結婚するわ」 「……!」 言葉に詰まる。いや、返す言葉が分からない。 それは、つまり…… 「そ、そうなの?! やだ、おめでとう! 教えてくれないなんて酷いじゃん」 精一杯の抵抗だ。 頭の中が真っ白になったなんて、言えるわけがない。 「じゃあ、もう連絡しない方がいいね」 「まあ、ほどほどにな」 彼は一歩私に近づくと頭をポンと撫でた。 やめてよ、今の私に昔と同じようなことしないでよ。 子供じゃないんだから、と言いかけて止める。 ほどほどなんて言わずにちゃんと言ってよ。 もう逢えないなって。 彼に飛びきりの笑い顔を見せた後、なにかがはちきれたように私はその場で声を上げて泣いた。 小さい頃から仲良しだった幼なじみが結婚する。 私はずっと彼が好きだった。 なのに、彼は私の存在が近すぎて異性としての関心を持ってくれなかった。 想いはすでに断ち切ったはず。 しかし、彼との繋がりを切ることができずに幼なじみという武器を盾にしてきた私はずるい。 この桜の木の下で小さい頃にかくれんぼして遊んだ記憶がよみがえる。 彼は隠れるのが上手で、いつも見つけることが出来なかった。 いくつになっても、何年経っても見つけられない。 もう、ずっと…… 「オマエの泣き声はいつも大音量なんだから、もう泣くなよ」 泣きじゃくる私を少し乱暴に抱き寄せ、唇と唇が重なる。 「やっと静かになったか。目がガラス玉みたいになってるぞ?」 涙を拭ってくれる指と上から目線の物言い。 もうイラッとすることもないんだね。 さようなら、初恋。 かくれんぼは私のひとり負け。 彼への想いは私にとって最後の罪。 今日の朝には実家を出発して東京へ戻ろう。 私の帰りを待つ夫の元へ……
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