3 無花果(いちじく)渦巻くミステリーサークル

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「ぷっ……あはは……っ」  笑い転げる僕を見て、蒼羽くんがぽかんとしている。  自分の発言に高飛車な自覚があったのか、なんとなくばつが悪そうだ。 「な、なにがおかしいんだよ!」 「はは……なんだろう。自分でもわからない」  涙まで出てきた。こんなに笑ったのは久しぶりだ。このところ、怒ったり悩んだり笑ったりと、僕の感情は忙しい。  ひとしきり笑ったら、モヤモヤした感情は少し晴れていた。  心というものは複雑なようでいて、単純なときもあるのだ。悩んで、笑っての繰り返しで、人間は意外とどうにか生きていける。  あやかしも同じだといいけれど。 「おい、そこに誰かいるのか?」  突然、人の声が聞こえ、僕は笑うのをやめた。隣で蒼羽くんも同じように警戒の色を見せている。 「今、話し声が聞こえたぞ。例のミステリーサークルの犯人だろ? 勝手にうちの土地でなにやってんだよ」  うちの土地……ってことは、この声は小関なのか?  こんな真夜中にどうして小関がここにいるのか。それはわからないが、この場をどうにかしてごまかさなければならない。  ミステリーサークルの真ん中で、それを作った蒼羽くんと僕が一緒にいるのだ。この現場を見られたら言い逃れはできないし、僕も共犯だと思われる。そうでなくても、既に噂になっているこの問題について、知らないふりをしていたことがバレる。  どうしよう。いっそのこと、こっちから出て行って適当な言い訳をするか……でも、なんて言えばいい? 「逃げるぞ」 「え……ちょっ……!」  僕が悩んでいるあいだに、蒼羽くんが勢いよく立ち上がって駆け出した。スタートダッシュもその後の加速も信じられないスピードで、あっという間にその姿が見えなくなる。 「おいっ、逃げるな! 待て!」  蒼羽くんの行動に気づいたらしく、小関が雑草をかき分けてこちらに走って来る音がする。  犯人を捕まえるつもりらしい。  自首か逃走か決められないまま、僕も蒼羽くんの後を追いかけた。現行犯逮捕は最悪だ。それだけは回避したい。  だけど、当然のことながら僕は走るのも苦手だ!  運動神経が鈍いだけでなく、スタミナもない。短距離ではいつも最下位だったし、長距離は完走できたことがない。  おまけにあたりは真っ暗で、雑草だらけの田んぼは走りにくい。運動が得意な小関に追いつかれるのは時間の問題である。記憶が正しければ、中学時代の小関は学年で一番足が速かった。  前方には既に蒼羽くんの姿はなく、もう足音も聞こえない。この前も思ったけど、あの子、足が速すぎだろ! それだけ速ければ飛べなくてもいいんじゃないか?  けれど、天狗というあやかしにとっては、飛ぶことにはもっと哲学的な意味があるんだろうな。自分が自分であるための、心の拠り所のような。  だから、彼は何度落下しても挑戦し続けたのだ。
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