3 無花果(いちじく)渦巻くミステリーサークル

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「あんた、天星様とどういう関係なんだよ。人間のくせにあの方の守護があるなんて、聞いたことがない」 「どういう関係って……話すといろいろあるけど、一言で言うと今は雇用主とバイト店員だよ。白銀さん……天星様が経営するカフェで働いてるんだ」 「カフェ……そういえば、そんな話を黒羽兄貴が言ってた気がする。なんでわざわざカフェの経営なんて……」  理解できないという顔で、蒼羽くんがぶつぶつ言っている。やっぱり、黒羽さんと違って白銀さんをリスペクトしてるっぽいんだよな。その白銀さんがあやかしだけでなく人間も相手にして働いているのが気に入らないようだ。 「それで、あんたはここになにしに来たんだ? 天星様の命令なのか?」  不機嫌そうではあるが、このあいだのような殺気は感じない。僕を少しは信用してくれたのか、白銀さんがバックについているせいか……間違いなく後者だろうな。  人もあやかしも、信用を得ることはそう簡単ではないのだから。 「違うよ。ここへは僕の考えで、君の様子を見に来た。このミステリーサークルのことが天星町で噂になってるのは知ってる?」 「ミステリーサークル?」 「君の妖力が作った、この円のこと」  僕は地面を指さした。僕らが腰を下ろしているのは、蒼羽くんが作ったばかりのミステリーサークルの中である。噂は聞いていなかったのか、聞いていても自分の特訓と結びつかなかったのか、蒼羽くんは怪訝な顔をしていた。 「ここの土地、今は使っていないけど僕の知人の家のものなんだよ。このミステリーサークルの原因がわからなくて困惑していたし、近所の人にも知れ渡っているから、できれば練習場所を変えてほしいんだ」 「そう都合のいい場所なんかねーよ。このあたりはあまり目立たなくて、広さもちょうどいいからな」 「僕がなんとかするよ。今すぐってわけにはいかないかもしれないけど、ちょっと待ってくれる?」 「……それなら、いいけど」  渋々という感じで、蒼羽くんは受け入れてくれた。  代替地については、祖父の伝手(つて)を使ってなんとかするつもりだ。あまり(わずら)わせたくないけれど、僕ひとりの力ではどうにもならない。これも天星町の平和のためだ。 「俺の名前、黒羽の兄貴から聞いたのか?」 「あー、うん……」  白銀さんから聞いたことにするべきかと思ったが、僕は嘘をつくのが下手だった。  この秘密特訓について黒羽さんは知らないことになっているけど、それに関しても蒼羽くんはもう気づいているようだ。  彼は、諦めたように大きく息を吐いた。 「俺が飛行練習をしてることは、どうせ兄貴にもバレてんだろ? あんたがなにを聞いたかは知らねーけど、俺が一族の出来損ないだってことは事実だからな」  相手があやかしで、しかもクソ生意気な高校生なのに、僕は悲しくなった。  自分のことを出来損ないなどと言わないでほしい。けれど、天狗として、飛べないことはきっと不名誉で致命的なことなのだろう。  彼らの事情を知らない僕が、安い慰めの言葉を口にすることはできない。それでも、蒼羽くんの気持ちに寄り添いたかった。 「コンプレックスは僕にも山ほどあるよ。つい最近も、ある人から不愉快なことを言われてついカッとなって、言わなくていいことを言ってしまって落ち込んでる。今更考えたってしょうがないのに、いつまでも引きずって、そんな自分が嫌になるんだ」  小関の言葉に腹が立ったのは、たぶんそれが正論だと僕自身が思ってしまったせいだ。  僕は一人でいることが嫌いではないし、無理に友達を作る必要はないと思っている。だけど、そんな自分が時折虚しくも感じるのだ。  なんだか、あやかしを相手にするよりも、人間を相手にするほうが僕は気負ってしまう気がする。あやかしに対しては取り繕う余裕なんてないから、案外自然体でいられるのかもしれない。 「人間のつまらない悩みと一緒にするな。俺のはもっと深刻なんだ」  鬱々と悩んでいる僕に、蒼羽くんがそう言い放った。  あまりの傲慢さに呆気に取られる。  この太々しい態度! やっぱりこのクソガキ、正真正銘の天狗だ……。  ムカついているのに、そう思ったら無性におかしくなってきて、思わず僕は吹き出していた。
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