3 無花果(いちじく)渦巻くミステリーサークル

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 ガサガサと雑草をかき分けて、僕は必死に走り続けた。足は重いし、酸欠状態で今にも倒れそうだ。 「待てって言ってるだろ!」  小関の声がすぐ後ろで聞こえるが、待てと言われて待つ犯人はいない。  ここで捕まれば、僕がミステリーサークルの犯人ということになる。そうなったとしても天狗の仕業などと言えないし、蒼羽くんを突き出すつもりもないけれど。  だけど、その代わりに僕が失うものは小さくはないだろう。このことが天星町で噂になれば祖父母に迷惑がかかるし、小関の信用も失う。ああ、それはもうこの前なくなったのか。  なんだか、僕はあやかし絡みで危ない橋ばかり渡っているような……。  今夜のことは白銀さんに頼まれたわけではなく、自分の意志で来ているのだから誰にも文句は言えないが。 「……もう……無理……っ」  しかし限界である。これはもう観念するしかないと、足が止まりかけたときだ。  いきなり、体がふわりと浮いた。 「え……?」  足裏に地面の感触がない。勘違いではなく僕は浮いていた。  体の芯がぞわりとするような浮遊感に包まれて、暗闇の中で遠ざかる田んぼを見下ろす。小関が走るのをやめてこちらを見上げていた。 「これって、飛んでるよね? なんでっ!?」 「騒ぐなよ! 落としても知らないからな!」  頭の上から蒼羽くんの声が聞こえる。つまり、僕は今、蒼羽くんに抱えられて空を飛んでいるらしい。 「蒼羽君、飛んでるけど……」 「……みたいだな。自分でもびっくりだ」  満天の星空の下、天星町は眠りに就いていた。闇の底に沈んでいるような町の中にぽつぽつと人家の灯りが見え、ひときわ煌々(こうこう)と光っているのは町で唯一のコンビニだ。町の横を通る高架橋の上を、時折重いエンジン音を響かせてトラックが走っていく。  夢のような夜間飛行に、僕は怖いと思うよりも興奮していた。 「すごいよ! ちゃんと飛んでるよ!」 「わかったから(わめ)くなよ! こっちはただでさえ飛ぶのに慣れてないのに、あんたまで抱えて必死なんだよ!」  その声が本当に必死すぎて笑える。いや、笑っている場合ではない。  暗くてよくわからないが、眼下の灯りの大きさを考えると、地上二十メートルかそこらはありそうだ。僕は頑丈なあやかしではないので、ここから落ちたら間違いなく重傷、場合によっては死にかねない。  怖っ! ここで落ちたら、どういう状況で事故ったのか説明できないところがさらに怖い!  こんなときなのに、あやかしの存在をどうごまかすか頭の片隅で悩んでいるとは。僕も結構タフになったな。  蒼羽くんの大きな翼は風をとらえ、小関家の田んぼからもあっという間に遠ざかっていった。 「とにかく、安全な場所に着陸するぞ」  蒼羽くんはそう言って、ゆっくり地上へとランディングする。  少し(つまず)きながらも、若い天狗の初飛行は無事に終了した。                ☆
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