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最初は何の地図なのかわからなかったがじっくり眺めているとこの街の地形図だということがわかった。そして道に赤い線が引かれていて数字が描かれていた。赤いバツ印が壁面を掘って大事な刻印のように刻まれていた。
私はこの前、テレビで見た凱旋パレードのことを思い出していた。そこで私は身体中が震えた。全身からじわりとした気味の悪い汗が出て目眩がした。後ろにいる伊藤の顔を怖くて見ることができなかった。
赤い線はパレードの車が通る場所、数字はその時刻だと勘付いた。そして赤いバツ印はおそらく首相を暗殺する場所だろう。伊藤が私の耳元で囁いた。
「騙し屋の真下茜さん。死ぬ覚悟はできているか。誰に頼まれた?」
私は怯えて青褪めた。心臓が早鐘を打っている。真面目で優しい伊藤はどこにもいない。平気で人を殺す悪魔の囁きのように聞こえた。私は懸命な思いで声を絞り出した。
「この場所は何なの? 私は何も知らなかったの。お願い。助けて!」
「今から殺される奴が知っても意味がないが、ここは首相暗殺をするための作戦会議室だ。ここに入った時点でもう命はない」
扉を開けた異国人が階段から降りてきた。銃を構えていて私は恐怖で身動きができなかった。これはただの浮気調査ではない。でもどうしてこうなったの?
「誰に頼まれた?」
「あなたの彼女の川村晴香。お願い。助けて!」
伊藤が眉根を寄せて鬼の形相になった。今まで見ていた伊藤とは全く別の人間だ。伊藤の身体中が怒りでわなわなと震え鋭い眼光が私を睨み潰していた。
「おまえ、この状況でふざけているのか。誰だ、そいつは!」
私はその言葉によって騙されたとわかった。伊藤が川村を知らないとはどういうことか。川村から渡された資料と川村の知人から情報を集めた。しかし川村は偽名だったのだろうか。酷く困惑して頭の中を得体の知れない生き物が蠢いているような感覚に陥った。
異国人が私の額に銃を突きつけてきた。私は川村という偽名を使った誰かのせいで殺される。涙が止めどなく溢れてくる。その時だった。
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