騙し屋の道程

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 階段を駆け降りる複数の足音が聞こえると、一人が飛び降りて異国人を蹴り飛ばした。伊藤が攻撃をしようとした時、武装した三人によって取り押さえられた。  次々に武装した人間が階段を降りてきた。狭い部屋に二十人以上が集結した。私は訳が分からず両手を挙げて降参する姿勢をしていた。聞き覚えのある声が聞こえた。 「真下茜さん。初めまして。私が川村を名乗っていた杉林朱里です」  防弾ヘルメットを脱いだ杉林は嬉しそうに微笑んでいた。私が命の危険に晒されたというのに。しかし殺される所を助けてもらって杉林に泣きついた。身体の震えが止まらない。 「危険な目に遭わせてしまってごめんなさい。伊藤は警察官の顔を知っているので素人のあなたを利用するしかなくて」  私は震える声で杉林に聞いた。何がどうなっているのかわからない。 「あなたは警察官なの? 伊藤は何者なの?」 「私は大泉首相の命を守るために動いている警察官です。伊藤は首相の命を狙う指名手配犯です」 「伊藤が浮気をしたという話はどうなったの?」  杉林が苦い顔をして応えた。 「あれはあなたを利用するための嘘よ。伊藤とは今日初めて会ったの」  私はもう何がなんだかわからなかった。何が正しくて何が間違っているのか。はっきりしていることは騙されて命の危険に晒された所を助けられたことだった。 「警察官が市民を騙していいんですか?」
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