10人が本棚に入れています
本棚に追加
アリス
「……でもそんな事、あります?」
「あったんです。間違いないんです!」
霧島少尉は大きな身を乗り出し切実に訴えた。
「昨日小夜さんと久しぶりにお会いできて、嬉しくて嬉しくてわあっと駆け寄ったわけですが」
「絵が浮かびますね。続けてください」
「小夜さんのリボンの位置が、いえ、頭の位置が前回よりも低いのです」
この人は何を言っているのだろう、と思った。丘酔いでもしてるのか。少尉は白蘭地を僕にすすめて、うーんと腕を組んだ。
「先月お会いした時にもちらっと感じてはいたんです。向かい合って立った時、あれ? 小夜さんのおでこが金ボタンの二段目あたりだなって。前は一段目だった気がして」
「なるほど……貴方がたはもともと身長差がかなりあるので、さっき見てても気付きませんでした」
「どうしよう。このまま小夜さんがどんどん小さくなって……一寸法師みたいになって、親指姫みたいに……あ、かわいい。ドールハウスとかご用意したほうが宜しいでしょうか」
「何でも良いご様子ですね。安心しました」
僕が呆れて腰を上げると、少尉は両手で目をごしごしと擦った。
「あれっ? 先生も小さくなられました?」
「なるほど貴方が大きくなってますね」
「でも服のサイズは変わっていないんですよ」
「じゃあ服も大きくなってます」
「なぜ」
少尉は僕の冗談を真に受けて、不安いっぱいの目を向けてきた。
「将校が何故なんて言ってはいけませんよ。頭痛はありますか」
「そういえばたまに……なぜですか? 何かの病気ですか。あっ」
それぎり、少尉は僕に何も尋ねはしなかった。
こういう人、長生きしない。
**********
【解説】
6割は自然軽快するそうです。
最初のコメントを投稿しよう!