アリス

1/1
前へ
/17ページ
次へ

アリス

「……でもそんな事、あります?」 「あったんです。間違いないんです!」  霧島少尉は大きな身を乗り出し切実に訴えた。 「昨日小夜さんと久しぶりにお会いできて、嬉しくて嬉しくてわあっと駆け寄ったわけですが」 「絵が浮かびますね。続けてください」 「小夜さんのリボンの位置が、いえ、頭の位置が前回よりも低いのです」  この人は何を言っているのだろう、と思った。丘酔いでもしてるのか。少尉は白蘭地(ブランデー)を僕にすすめて、うーんと腕を組んだ。 「先月お会いした時にもちらっと感じてはいたんです。向かい合って立った時、あれ? 小夜さんのおでこが金ボタンの二段目あたりだなって。前は一段目だった気がして」 「なるほど……貴方がたはもともと身長差がかなりあるので、さっき見てても気付きませんでした」 「どうしよう。このまま小夜さんがどんどん小さくなって……一寸法師みたいになって、親指姫(トーメリーサ)みたいに……あ、かわいい。ドールハウスとかご用意したほうが宜しいでしょうか」 「何でも良いご様子ですね。安心しました」  僕が呆れて腰を上げると、少尉は両手で目をごしごしと擦った。 「あれっ? 先生も小さくなられました?」 「なるほど貴方が大きくなってますね」 「でも服のサイズは変わっていないんですよ」 「じゃあ服も大きくなってます」 「なぜ」  少尉は僕の冗談を真に受けて、不安いっぱいの目を向けてきた。 「将校が何故なんて言ってはいけませんよ。頭痛はありますか」 「そういえばたまに……なぜですか? 何かの病気ですか。あっ」  それぎり、少尉は僕に何も尋ねはしなかった。  こういう人、長生きしない。 ********** 【解説】 6割は自然軽快するそうです。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加