宝石匣

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宝石匣

「宗介さんのおてては、宝石屋さんのおてて」  小夜さんは色とりどりの指輪を触る僕の手を眺めて呟いた。 「宗介さんのおめめは、うさぎさんのおめめ」  僕はすっかり泣きはらしたみっともない目元に前髪を下ろした。 「宗介さんのせなかは、ねこちゃんのせなか」  小夜さんは紅葉(もみじ)の様な可愛い掌で僕の背中をよしよしと撫でた。  如何(どう)して君は泣かないの。だって君はまだ五歳。 「……小夜さん、これからは僕が貴女の面倒を見ますからね。貴女が頑張らなくてもよいように、そのぶん僕が頑張ります。何も心配しないで」  言いながらすっかりしょぼくれた僕の胸に手をあてて、小夜さんは、 『宗介さんのこころは、わんちゃんのこころ』と呟いた。  宝石匣(エクラン)には、旦那様の愛がたくさん(のこ)っていた。  みんな棄てても宜しいでしょうか。  僕は出窓に掛けるマリア様の白い影に、恨めしそうに囁いた。 ********** 奥様の遺品整理。棄てられる物など何もなかった。
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