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宝石匣
「宗介さんのおてては、宝石屋さんのおてて」
小夜さんは色とりどりの指輪を触る僕の手を眺めて呟いた。
「宗介さんのおめめは、うさぎさんのおめめ」
僕はすっかり泣きはらしたみっともない目元に前髪を下ろした。
「宗介さんのせなかは、ねこちゃんのせなか」
小夜さんは紅葉の様な可愛い掌で僕の背中をよしよしと撫でた。
如何して君は泣かないの。だって君はまだ五歳。
「……小夜さん、これからは僕が貴女の面倒を見ますからね。貴女が頑張らなくてもよいように、そのぶん僕が頑張ります。何も心配しないで」
言いながらすっかりしょぼくれた僕の胸に手をあてて、小夜さんは、
『宗介さんのこころは、わんちゃんのこころ』と呟いた。
宝石匣には、旦那様の愛がたくさん遺っていた。
みんな棄てても宜しいでしょうか。
僕は出窓に掛けるマリア様の白い影に、恨めしそうに囁いた。
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奥様の遺品整理。棄てられる物など何もなかった。
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