10人が本棚に入れています
本棚に追加
帝大のどん狐
大晦日の夜、書生長屋の居間には僕と小夜さんだけだった。
炬燵に差し入れた足がうっかりふれて、どちらともなく会釈した。
「たまには年越しうどんも良いですね、先生」
小夜さんは童女のように微笑んだ。
「……あの、ずっと気になっていたのですが」
「はい」
「──彼方はどなたですか?」
僕は二人しか居ないはずの部屋の隅で正座をしている、得体の知れない人物を指差して眼鏡を押し上げた。『それ』は狐の面を着けた若い男、或いは若い女の様なものだった。
「狐です。帝大の狐」
「狐……」
訳が分からない。僕は考える事をやめた。
きつねうどんを、或いはそれを食べる僕たちをじっと見詰めている。僕はいつもに増して湧かない食欲をどうにか揺り起こした。
「……いただきます」
黄色く甘いおあげの端をそっと前歯で齧ると、『痛い』と小夜さんが呟いた。
**********
【解説】
あのCMのパロディが思ったよりハマった。小夜さんは通訳です。
最初のコメントを投稿しよう!