帝大のどん狐

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帝大のどん狐

 大晦日の夜、書生長屋の居間には僕と小夜さんだけだった。  炬燵に差し入れた足がうっかりふれて、どちらともなく会釈した。 「たまには年越しうどんも良いですね、先生」  小夜さんは童女のように微笑んだ。 「……あの、ずっと気になっていたのですが」 「はい」 「──彼方(あちら)はどなたですか?」  僕は二人しか居ないはずの部屋の隅で正座をしている、得体の知れない人物を指差して眼鏡を押し上げた。『それ』は狐の面を着けた若い男、或いは若い女の様なものだった。 「狐です。帝大の狐」 「狐……」  訳が分からない。僕は考える事をやめた。  きつねうどんを、或いはそれを食べる僕たちをじっと見詰めている。僕はいつもに増して湧かない食欲をどうにか揺り起こした。 「……いただきます」  黄色く甘いおあげの端をそっと前歯で齧ると、『痛い』と小夜さんが呟いた。 ********** 【解説】 あのCMのパロディが思ったよりハマった。小夜さんは通訳です。
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