解語の花

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解語の花

 旦那様がさる侯爵家から拝領した篝火花(シクラメン)は今、僕の家の一階にある診療室の出窓に居る。  あいにく調子が優れず慈兵衛さんに見てもらうのだと話すと、小夜さんは『鉢を替えてほしいみたい』と呟いた。慈兵衛さんの答えも同じで、僕は少しく驚いた。 「この子は先生の事が好きみたいですよ。頑張り屋さんだから心配なんですって」 「……花、この子がそう言ったんですか?」  硝子の水差しを手に持ち小夜さんは笑う。 「ええ。私が此処に来ると、時々そっと教えてくれるんです」  傷んだ丸い葉の茎をくるくると捻りながら小夜さんは微笑んだ。  小夜さんは時々遠くを見ている。小さい頃からずっと。  遠くを見て、まるで見えないものが見えるような、聞こえないものが聞こえるかのような話をする。 「先生の独り言も、居眠りも。みんな教えてくれましたよ」 「揶揄(からか)わないでください」  小夜さんはそれ以上何も言わなかった。  出窓の薄日を受けながら煙管を吸っていた慈兵衛さんは、ふーんと顎を撫で笑った。 「『解語の花』ってやつか。良かったな色男」 「……慈兵衛さん、紅い篝火花(シクラメン)の花言葉を知っていますか」  嫉妬です。と僕は囁いた。 ********** 【解説】 小夜さんの不思議な感性。旦那様は侯爵から嫌われている。 ※Twitter掲載分はここまで。以降は書下ろしです。
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