第11章 絶対に越えられない深い谷

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第11章 絶対に越えられない深い谷

その場では身体が言うことを聞かずにすっかり快楽に流されて終わってしまったけど。 双子から解放されてようやく家に戻り、自分の部屋で一人になって落ち着いて状況を分析してみるうちに。わたしの精神は次第にじわじわと追い詰められ始めた。 話に聞いてるだけなら顔を顰めはしても、さすがに半分以上冗談でしょ?とか、まさかそんなことまでしないよな、いくら何でも。と笑い飛ばせなくもないけど。 思うに、おそらくあれは何かの例えとかわたしに対するただの脅しとかじゃない。あの人たちなら全然あり得る、あのくらいのこと現実に。 そもそも何も知らないわたしに結婚の了承さえ得ずに平然と睡眠薬を盛って人前で性的に弄んで、罪悪感もろくな謝罪すらなくそのまま行為を続けてるくらいだから。普通のまともな常識ある人の感覚が通用すると思わない方がいい。 だけど。はっきり断ったり自分の意見を表明しないまま流されてるうちにとうとうここまで来てしまった、って気分だ。 わたしは自室で机に向かって坐り、頭を抱えた。 …さっき聞いた話をリアルに想像するだに、彼らの母親がどうしてそこまで一気に精神的ダメージを負ったのかが。わたしの身にもありありと理解度高く迫ってきた。 ほんとに、絶対そんな目に遭いたくはない。双子は平気で三日三晩の我慢だから。それが済めば三人で仲良くお屋敷に引っ込んで、しばらくは心ゆくまでいちゃいちゃ楽しめるしまあそれでいいでしょ。と当たり前のように言うけど。 村人の前で公然と性的な行為を晒すのが普通、って感覚にわたしは未だどうしても慣れることができない。いわんや本番の儀式では実際にたくさんの人たちがわたしの身体に次々と際限なく触れ続けるんだとわかっている今に於いてをや、だ。 ごく一般的な育ち方をした普通の日本人女性なら、そりゃ心も壊れるの無理ないと思う。双子と水底さんの母親ならおそらくどんなに上に見積もってもまだ四十代。現在のわたしたちの年代と較べてめちゃくちゃ女性としての意識が違うわけじゃないはず。 男や年長者が強いてくることには何があっても絶対抗わずじっと耐えなきゃならない、なんて明治時代か戦前みたいな感覚であるはずがない。普通に現代の自意識を持ってる女の人なら世界がひっくり返るほどのショックを受けてもおかしくないと思う。 しかも、その三日間を何とか耐えきればそれで終わりってわけでもない。 何となく、前から薄々わかってはいたけど。今回のあの儀式の話で改めて心の底から実感したことがある。 わたしは机の表面に両肘をつき、組んだ手の甲の上に顎を乗せて真剣に考え込んだ。あちこちにとっ散らかってる要素を正視して現実を思い知らされるのが嫌で、いろいろと見ない振りをしてここまで来た。だけど、そろそろきちんと目の前に迫ってる少し先の未来と向き合わないと。 このままじゃ本格的に逃げるチャンスをなくす。さすがにそろそろ、潮時だ。 …あの件はただ儀式の三日間だけで終わる話じゃない。多分一事が万事、あの調子なんだ。 この村が跡継ぎの器に選ぶ女性に求める全てが始まりの儀式のやり方に象徴されて露わになっている。 一見双子たちの普段の振る舞いは、今後わたしを可愛がってめちゃくちゃに溺愛しそうに見えなくもない。何かと小まめにプレゼントを贈ろうとするし、毎週忘れずに必ず連絡を寄越して迎えにくるし。 祭事がないときは性的な行為を特に強いたりもせず、エスコートの仕方も紳士的。こいつは言われるままに何でもやる女だから、みたいな軽んじた扱いも平常時は絶対しない。平常時に限れば。 家に招くときはいつも美味しいものを食べさせたり、明るく機嫌よく接して常にお喋りでわたしを楽しませようとするのも忘れない。もしわたしが能天気な頭の女なら、この人たち絶対自分のこと好きだろ。と今頃はすっかり自惚れてたかも。 そう、彼らは人好きがして口が上手い。見た目も身のこなしも言動も、洗練されてて印象がよく誰から見ても魅力的だ。だからよく知らないとうっかり騙されそうになるし。彼らが自信たっぷりに断言すると何となくそうかな?とぐらついて、こっちが間違ってるのかも。と迷いが生じてつい信用したくなる。 人前でする行為も、村では当主の奥方候補の女性に必ずこれをやる一種の通過儀礼、つまりは試練みたいなものだ。っていかにももっともらしく口先で言われたらつい、そうなのかな…って洗脳されかけそう。 実際、単に彼らの趣味とか嗜好でああいうことをしてるってわけじゃないんだとは思う。それはそれとして心から愉しんでるのも間違いないだろうけど。 だけど実は根本的な問題は、双子がわたしにあれをしたいからなのか、それとも村での決まりだから仕方なくやってるだけかの違いにあるってことでもないんじゃないか。とわたしは重い頭を振って、気が進まないながらもさらにもの憂く考えた。 一番根っこにある彼らの問題。それは、そもそもああいうことをされたわたしが何を感じ、一体どう思うのか。その結果がこの心や身体にどんな影響を与えるのか、そこには双子は最初からまるで関心がない。…って事実が次第にくっきりと露わになってきた、ってこと。
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