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エピローグ
夫は相変わらず、優しい。
仕事からも直帰して、親子3人での楽しい夕食。
いい父親で、2人が一緒に遊んでいる姿を眺めるのは微笑ましい。
夫が私を「ママ」と呼ぶことはなくなった。
隣の外壁工事はすっかり終わり、静かな平日が戻った。
私は家事を一通り片づけて、ソファーに体をゆだね、気だるくテレビをつけて、いつもの動画配信サービスを開く。
そろそろ扇風機が必要かしら、納戸から出さないと…
ハイネックのカットソーも暑くなるな…
そんなことを思いながら、チクチクする胸元をさする。
強烈な睡魔に襲われて、眠りに落ちる。
霧が立ち込めた幻想的な場所。
北村先生がさわやかな笑顔で遠くに立っていた。
私の足元は湿地になっている。
思うように身動きが取れない。
ようやく1歩、2歩と進んでみるも、北村先生との距離は一向に縮まらない。
北村先生は「さようなら」と背中を向けて去っていく。
「まって」の一言も、声がつぶれて、のどから出てこない。
もう届かない。
北村先生はもう私を抱いてはくれない。
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