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早くに冷やしたことが良かった。
腫れは引いて、痛みも少し和らいだ。
病院へ連れて行くといってきかない夫を説得し、男子の親子対決を観戦した。
「佐倉さん、ごめんねー…折れてたらどうしようー…」
小田さんが申し訳なさそうに謝りに来た。
「腫れも引いてきたし、大丈夫だと思います。私がどんくさかったから。気にしないでください。」
ちょっとお痩せになったら?と、一瞬心の端っこで思ってしまったが、自分がどんくさかったのも事実。
一部始終を見ていたにもかかわらず、よけきれなかったのだから。
きっと5歳くらい若ければ、動けていたかな?
いや、10歳か。
「それより、佐倉さんご主人に愛されてますね~…」
「え?」
「北村先生に抱きあげられた時、ご主人ぜったい嫉妬してたわよ。見なかった?」
「えー…まさかぁ…」
「本当よ~!ちょっと顔こわかったもん…あぁ~でも、いいなぁ、私も先生に抱きかかえられたーい…なぁ~んて、先生腰痛めるわね、あっはっは~!」
小田さんは1人で盛り上がって、豪快に笑った。
私は「あはは…」と、愛想笑いを返す。
レクが終わってすぐに、私は夫におぶられて会場を後にした。
こんなに密着するの、いつぶりだろうか。
何だか、すごく恥ずかしくて、断ったのだが「歩けないでしょ、それに、抱っこは嫌でしょ?」と強引におぶられることになった。
「将太ごめんな、ママ病院連れて行くから、1人で帰れるだろ?」
「ごめんね将太。留守番しててね。冷蔵庫にプリン入ってるから、食べていいからね。」
将太は心配そうに私たちに手を振って、トボトボと帰っていった。
「今日は、本当にすみません。足、大丈夫でしょうか、車だしましょうか。」
北村先生が私たちの元へ駆け寄ってきて、心配そうにチラリと私に目を向けつつ、真っすぐに夫の方を見てそう言った。
「いえ、大丈夫です。タクシー呼んであるので。」
夫も視線を逸らすことなく、きっぱりと応える。
「私がどんくさいから、ごめんなさい。楽しいレク台無しにしちゃって。」
どことなく緊張感ある空気を壊したくて、明るくそう言うと。
「歩夢が悪いわけじゃないだろ」
背負ってる私が落ちないように、きゅっと背負いなおしながら夫が言った。
優しくたしなめるような夫の一言にドキリとした。
8年ぶりに名前を呼ばれたからだ。
なに、何がどうしたの。
いつもと違う夫の態度に私は動揺した。
「あ、じゃあ、先生。今後とも将太をお願いします。」
私は動揺を隠すように、この妙な空気を断ち切った。
「はい、こちらこそよろしくお願いします。では、お気をつけて、お大事にしてください。」
そう言って、先生は深々と一礼し、私たちを見送った。
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