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「うぅ……ぐす」
ニーナは泣きべそをかきながら丘の上で膝を抱えていた。
あの後なんとか事態は収拾したものの、聖女としての初めての儀式は大失敗に終わってしまったのだ。
『なんてことをしてくれたの!』
儀式の後、母親は怒り狂って彼女を叱りつけた。
『ニーナ、あなたは聖女なのよ! あなたのしたことは神様のお顔に泥を塗ることよ!』
母親に物凄い剣幕でまくし立てられ、ニーナもかっとなって言い返した。
『そんなの知らないよ! 私だって好きで聖女になったわけじゃないのに!』
『なんてことを言うの!』
『私が苦しんでいるのに、どうしてわかってくれないのよ!』
ニーナはそう言うと、涙をこぼしながらその場から走り去った。
『お母さんなんか大嫌い!』
という捨て台詞を残して。
「はぁ……最悪」
丘から見える夕焼けはとても綺麗だが、今のニーナにはそんなものに感動している余裕はなかった。
聖女の役目はこの町に住む人々を守り導くことなのに、ニーナは町の人々に危害を加えてしまった。たいした被害はなかったものの、一歩間違えば大変なことになっていたかもしれないのだ。
「ニーナ」
優しい声がしてそちらを向くと、ウィルがこちらを見つめていた。
「隣に座ってもいいかな?」
ニーナがこくんと頷くと、ウィルはゆっくりとした動作で腰を下ろした。
「ウィルぅ……私もう嫌だよぉ、どうして私がこんな目に遭わないといけないの?」
堪えきれずに嗚咽を漏らすと、ニーナの目からはぼろぼろと大粒の雫が流れ落ちる。ウィルも悲し気な顔をしながら彼女のことを見ていた。
「ニーナは何も悪くないよ。悪いのは、こんな運命をキミに強いている神様だ」
ウィルの言葉にニーナの心が揺れ動く。
そうだ、全部神様が悪いんだ。
ニーナが聖女に選ばれたのも、母親が厳しいのも、ウィルがあの女と結婚してしまうのも、みんな神様が与えた運命のせいだ。
そう思うとニーナの中に憎しみの感情が生まれてくる。
だけどどうすればいいのかわからなくて、ニーナは自分の気持ちを持て余していた。
「ねぇ、ニーナ」
そう言って優しく微笑むと、ウィルはニーナの頬に伝う涙を拭ってくれた。
「大丈夫、僕に任せて」
その言葉に、ニーナはおずおずと彼を見る。ウィルはいつものように微笑んでおり、彼の瞳は真っ直ぐにニーナを捉えていた。
「僕が、キミの運命を変えてあげるよ」
彼は真剣な表情で言うと、ニーナの手をぎゅっと握りしめた。
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