1 与えられた運命

4/4
前へ
/24ページ
次へ
「うぅ……ぐす」  ニーナは泣きべそをかきながら丘の上で膝を抱えていた。  あの後なんとか事態は収拾したものの、聖女としての初めての儀式は大失敗に終わってしまったのだ。 『なんてことをしてくれたの!』  儀式の後、母親は怒り狂って彼女を叱りつけた。 『ニーナ、あなたは聖女なのよ! あなたのしたことは神様のお顔に泥を塗ることよ!』  母親に物凄い剣幕でまくし立てられ、ニーナもかっとなって言い返した。 『そんなの知らないよ! 私だって好きで聖女になったわけじゃないのに!』 『なんてことを言うの!』 『私が苦しんでいるのに、どうしてわかってくれないのよ!』  ニーナはそう言うと、涙をこぼしながらその場から走り去った。 『お母さんなんか大嫌い!』  という捨て台詞を残して。 「はぁ……最悪」  丘から見える夕焼けはとても綺麗だが、今のニーナにはそんなものに感動している余裕はなかった。  聖女の役目はこの町に住む人々を守り導くことなのに、ニーナは町の人々に危害を加えてしまった。たいした被害はなかったものの、一歩間違えば大変なことになっていたかもしれないのだ。 「ニーナ」  優しい声がしてそちらを向くと、ウィルがこちらを見つめていた。 「隣に座ってもいいかな?」  ニーナがこくんと頷くと、ウィルはゆっくりとした動作で腰を下ろした。 「ウィルぅ……私もう嫌だよぉ、どうして私がこんな目に遭わないといけないの?」  堪えきれずに嗚咽を漏らすと、ニーナの目からはぼろぼろと大粒の雫が流れ落ちる。ウィルも悲し気な顔をしながら彼女のことを見ていた。 「ニーナは何も悪くないよ。悪いのは、こんな運命をキミに強いている神様だ」  ウィルの言葉にニーナの心が揺れ動く。  そうだ、全部神様が悪いんだ。  ニーナが聖女に選ばれたのも、母親が厳しいのも、ウィルがあの女と結婚してしまうのも、みんな神様が与えた運命のせいだ。  そう思うとニーナの中に憎しみの感情が生まれてくる。  だけどどうすればいいのかわからなくて、ニーナは自分の気持ちを持て余していた。 「ねぇ、ニーナ」  そう言って優しく微笑むと、ウィルはニーナの頬に伝う涙を拭ってくれた。 「大丈夫、僕に任せて」  その言葉に、ニーナはおずおずと彼を見る。ウィルはいつものように微笑んでおり、彼の瞳は真っ直ぐにニーナを捉えていた。 「僕が、キミの運命を変えてあげるよ」  彼は真剣な表情で言うと、ニーナの手をぎゅっと握りしめた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加